(危ういのう)
カン、カンカンと打ち合う、硬く尖った響き。
年嵩の手練れと、木刀での仕合いを続ける孫弟子……どころではない。
孫の孫の孫の孫の孫あたりの孫弟子を見ながら、狐の長は目を細くする。
(しかし。ここまで上達が速いとは。いやむしろ、“知っていたこと”を思い出したような)
妖術のみならず武芸百般の技をその尾の内で暖めつづけた老狐が、舌を巻くほどにあらゆる得物をあっさりと使いこなしたクズノハは。
やはりというべきか。日本刀の扱いに一番の才を見せた。
恐ろしいほどに。
(既にクズノハと互角に戦えるのは、一族の主だった者数名のみ、か。いやはや)
どれほど妖力が高かろうが、尾の数が多かろうが。どこの血筋とも分からぬクズノハを侮り、馬鹿にしていた者共はその実力を認めると同時に、ほぼ全員がくるりと掌を返した。
(現金なものよ。当初はあれほど、苛めたおしておったくせに。……やはりあの口伝のせいか)
狐一族の中で、まことしやかに語り伝えられている話がある。
何千年かに一度、先祖がえりとでも言えばいいのか。妖狐族の祖にあたる神狐に近い者が産まれると。その者が一族に最強の力をもたらすと。
そして、恐らくは、「これ」が「そう」だろうと。ほぼ全員が。
(まあ。元々、周囲の雑音を気にするような性質でもなさそうじゃが)
それでも。
くだらない妬みややっかみが減ることで更に修行の精度は増し。
隠されたり壊されたりした道具を探すような時間の浪費も無くなり。
(更に効率よく、鍛錬に力が入るようになったのはいいとして。やはり)
「そこまで!」
一方的となった仕合いを留めて、老狐はクズノハを見る。
白磁の頬に、かすかに息の上がった紅を走らせて。
透き通った対の黒玉を、何か強い負の感情で更に黒く染め上げて。
今、対峙している相手ではない、殺したいほどに憎い誰かを見据えている幼い剣士を。
(やはりこれは)
危うすぎる。