鳴る海 02




嫌だ。
こんな気持ちは、嫌だ。
黒くてどろどろとして体中に粘りつく、嫌な感情は。

嫌だ。

忘れても、忘れても、忘れられない。
振り払っても、振り払っても、消えない。

甘い音。優しい声。歓喜の羽ばたき。
次の日、あの方の枕元に落ちていた一片の白い、羽。
その存在を誇示する、ような。

(ここは、僕とシュラさまのお部屋なのに)

きっと。
罰が当たったんだ。
約束を破ったから。
罰が。

でも。
寂しくて。
いつも、一緒に居たのに。
夜中に目が覚めて。寂しくてたまらなくなって。うっかりと。

シュラ様の寝室に。

行かなければ、よかった。
ピクシー様にあれほどに、止められたのに。
行かなければ、聞かなければ、見なければ、知らなければ、よかったのに。

嫌だ。

黒い気持ちが叫ぶ。
裏切り者、と叫ぶ。
誰が、何が。何を。裏切ったと。

分からない。そもそも。そんなことを己に言える資格など、どこにも。

ああ、でも、ずっと、叫んでる。
心が、叫んでる。

――― 裏切り者!

愚かな。
今さらだ。

あの方が、恋人を持っておられることなど、皆、知ってる。
むしろ他の方に比べれば、少ないほうなのも、分かってる。

でも。

恋人なんかじゃない。Deadman、分銅だとロキ様は苦い声でおっしゃっておられたけれど
でも、それでも。その間だけでも、一番あの方の傍に居られる。

“その間”、だけでも。そこに。
(そこは、僕の場所なのに)


それに。


「心より、愛しております。……シュラ、様」
「ああ。俺も………アイシテルよ、ウリエル」



嫌だ!!

ああ。裏切り者!!

(それは、僕の!僕だけの言の葉なのに!!)




「そこまで!」



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