「なあ。クズノハ」
「はい。何でしょうか。シュラ様」
「これから、何か用事ある?」
「いえ、別にこれといって…」
「そっか、じゃあ」
楽しいことを考え付いたかのように、いたずらっぽくアクマな主はくすりと笑う。
「ちょっと。手合わせしないか?」
「は……、え?」
(えええええええ?!手合わせ?!シュラ様と?!僕が?!)
◇◆◇
「へえ。珍しい」
「これは……」
「なーんか、ボルテクス思いだすなぁ」
「……声が大きいですよ。集中の妨げになります」
ケテル城の中庭。
普段なら共に昼寝しているか、各々の好きな書物を寄り添って読んでいる二人が。
共に得物を持って、対峙している光景にロキとクー・フーリンは過去の幻を見る。
(あん時は頭の上に学帽と黒猫をのっけてたんだよなぁ。アイツ)
(どこの怪談の『黒猫』かと思いましたね。まったくもって腹立たしい)
(お?もう過去の因縁は水に流したんじゃなかったのかぁ?クー)
(それはそれ。あれはあれです)
(そういや。あんときにアイツに斃されたスダマの遺伝子持ちだったっけ。お前)
そりゃ忘れられないのも無理ねぇなあと、カラカラと笑うロキをジロリと睨み。
武人である幻魔の視線は、主と、今は少年のカタチの子狐の戦いへと戻った。
◇◆◇
(怖い)
互いに攻撃をかわしあい、次に技を繰り出すタイミングを計っているだけ。
なのに。
(怖い)
こちらはずっと、はりつめたような感覚でいるのに。目の前の悪魔は。
(ずっと、変わらない)
自然体のまま、その場所に。何事も起きていないかのように。
(なのにどこにも、隙が)
隙が無い。打ち込めばきっとヤられる。けれど、それでも。
(この方を倒したい)
戦って、打ち勝って、征服して、その何もかもを自分のものに。
(え?)
僕は、今、何を、考えて――?
「隙ありだぜ! クズノハ!!」
(しまっ…!)