告白 02




一瞬、途切れた集中を見逃さず、シュ、と繰り出された連撃を慌ててクズノハはかわす。

――― が。

(く。かわし、きれない――!?)

連撃が二桁に届き出す頃。
そのスピードについていけなくなった少年の額正面から、黒い紋様の入った波が走る。

(ヤられる!)

「……っ!そこまで!」

その場に、少しだけ焦りの色が入った、クー・フーリンの声が響き。
(ちぇ。お前、オレには声がでかいとか言っといて)とその横でロキがぼやき。

ギュと硬く眼を瞑ったクズノハがおそるおそる、瞳を開くと。
鼻先寸前で止まった拳の向こうに、嬉しそうに笑う、愛しい主の顔。

「すっげー!……やるじゃん。クズノハ!」
俺の連撃をここまでかわせるヤツなんて、将軍クラスでも少ないよ、と。まるで自分の子供のことのように喜ぶシュラに、いいえ、と返す。

「いいえ。僕はまだまだ修行不足で」
「そんなことは、」
ないよ。ねぇぜ。ありません。と三方からの声がとび、そうだよ、再度主が続ける。

「な。ロキとクー・フーリンまで言うんだから、間違いないだろ」
つか、お前らいつから居たんだ?と和気藹々と始まる主従の会話を眺めながら。
「お褒めに預かり、光栄、です」とクズノハは頭を下げた。

(でも、まだまだだ。この方と戦うには、まだまだ)
一太刀とて当てたわけではない。……当てられるわけも無いけれど。
完全に太刀筋を見切った上で最小限の動きでこちらの攻撃をかわし。
息一つ切らさぬ主に、嬉しそうに褒められても、どこか悔しい。

(でも、嬉しい)
褒めてもらって、嬉しい。認めてもらえて、嬉しい。
いつか。共に戦えるだろうか。この方の隣で。また。
(……また?)



◇◆◇



「そろそろ。終わろうか」
「あ。シュ、シュラ様」
「なに?」
「最後にもう一度だけ」
手合わせを、と。強さを求める子狐の真摯な瞳に、シュラは快く諾と肯く。

「うん。もう一度。やろう。でも、」
今度は刀。ちゃんと俺に向けろよ。バランス取りにくいだろ。日本刀だと。
「え。で、でも」

(見抜かれて、たんだ)
ばれないように、寸前で峰打ちに刃を。なのに。
だって、この方に刃を向けるなんて。もし少しでもかすってしまったら。
その肌をまた傷つけて、しまったら。僕は。

「武人への礼儀、だ。クズノハ」
「クー・フーリン様」
「気持ちはよく分かるが。武人に対して、その行為は失礼にあたる」

「そうそう。それにちょっと傷ついたぐらいでシュラはなんともならねーぜ」
「ロキ様」

皆に諭されて、少年の喉がコクリと音を鳴らす。
振り返ると、真摯な金色の瞳が己の黒い瞳を映す。

「本気で」
「……はい」



◇◆◇



その後のことは、今思い出しても、寒気がする。

シュラ様に促されるままに、僕は本気であの方に打ちかかって。
あの金色の瞳が嬉しそうにきらめいて、ああ、なんて綺麗なと見惚れた次の瞬間に。

「「なに?!」」

シュラ様の体の模様が一瞬で、赤く。
でも、連続技に入っていた己の刃を止めることは、できずに。

(マズ、い……、コレは)

「主様!」
「シュラ!」

は。と気付くと。
ゲイ・ボルグで僕の刃を受け止めた、クー・フーリン様の向こうに。
ロキ様の腕で受け止められた、死んだように地面に倒れかかる体。

その体から、流れ落ちる赤い。

「シュラ、様?!」




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