「また、死んだのかい」
小さな墓の前で、優しい素朴な花を手向ける私にかけられる、声。
「あの時の、少年だろう。私を見て目を丸くしていた」
「ああ」
「可愛かったのにね。“どこかの誰か”に、少し、似て」
「……ああ」
「絵は、どこまで描けた?」
「半分ほど」
「ほう。よく頑張ったものだ。さぞや」
苦しかったろうに、と。心にも無い台詞を落とすそれから視界を遮るために。
私は瞳を閉じる。
◇◆◇
候補者の選別はこうだ。と。
工業製品について語るかのように、淡々とその説明は為された。
「マロガレを入れた時点で、まずほとんどは死ぬ。その痛みに耐えられずに」
「マロガレは第一段階だ。ワダツミ、アンク、イヨマンテ、シラヌイ……。
適合しなければその時点で拒否反応を起こして斃れる」
「だから。シュラほどやすやすとマガタマを御せた生き物は、居なかったのだよ」
惜しいことをした、と深く吐く息には、さすがに苦い色がこもっているように見える。
「ソフィアを取り入れたときの、エノクの反応を覚えているかい」
(エノク。イーノックとも呼ばれる男。天上へと昇り、確か)
「そう。メタトロン。跪いていただろう。シュラに」
light最高位のアレに適合したということは、真のソフィアたる資格があるということだからね。
「真のソフィア?」
「ふ。今の君にはまだよく分からないだろう。記憶を取り戻したばかりの君には、ね」
痛烈な揶揄。そう。僕は何も知らない。知ったつもりで居て、彼のことを何も知らない。
彼が知られたくないと、そう、彼が願っていると思っていたから、ずっと、何も。
けれど。これからは。
――― これからは?
◇◆◇
「彼もこれまでと、同じかい?」
「ああ」
「君の役に立ちたいと、……いや、違うな」
“君の彼”になりたいと、自らマガタマを飲み込んだか。
「私は、君は違う、と言った」
君は、“彼”ではない。だから、命を粗末にするな、と。言った。言ったのに、皆。
「そうか」
残酷なことを言ったねぇ、と鋭く柔らかい断罪の刃を飛ばしておいて。
ああ、そうだ、と地獄の王は思い出したように言葉を続ける。
『星の王子さま』、だったっけねぇ。
狐が言うのだよ。
「あんたが あんたの一本のばらの花を
とても大切におもっているのはね
そのばらの花のために時間を無駄にしたからだよ」
とね。
ねえ。ライドウ。君にとって。君のためにマガタマを飲み込んだ少年たちは。ばらの花だったかい?それとも。
――― それとも?
その続きの言葉を言わぬまま、じゃあまた、と。いつものようにソレは姿を消した。