シセイ 13


「君は逃がしてあげるから」
心配いらないよ、と俺の拘束をはずしながら、ライドウは微笑む。

自分が他人にやりたいことを、他人に自分がやられて泣き叫ぶ、身勝手な醜い奴等の前で。

「お前、知ってて」

ああ、それはもちろん、とライドウは微笑む。
だってね、と困ったように笑う。

「君で、もう二十人目だ。私の秘密を探りにやってきた“黒髪の少年”は」
「なっ!じゃあ、俺は最初から捨て駒で……」
続く俺の言葉は、爪を剥がされて、ぎゃあああとわめきちらす豚の鳴き声にかき消される。

「ああ。これぐらいの拷問でやかましいことだ。他人の痛みを知らぬ下種(ゲス)はこれだから」

憎々しげに呟くライドウに、俺はビクリとする。
こんなに怒っているのは、初めて見る。


「彼は」

怒りが納まらぬのか、そのままライドウは何かを語り出す。


……君も知りたがっていた、“私の彼”は、ねぇ。
もっとひどい目にあっても、悲鳴ひとつあげなかった。

切り刻まれ、頭を首を肩を胸を、背後から銃で何発も撃ち抜かれても。
血を流し、苦悶と怒りの表情を魅せながらも、けして、痛いなぞ言わなかった。

「本当に苦しんでいる者は、悲鳴さえもあげられないのだよ」

そんなことも分からずに、と。ライドウの黒い怒りが向く先は豚なのかライドウ自身なのか。
やがて、ライドウの感情に喚ばれたかのように、彼の胸でホワリと輝いて何かが顕現をする。

「まだ喚んでいないが」
「お言葉だね。かほどに美しき憎悪を撒き散らしておいて」

こんな魅力的なお誘いで、出てくるなとは。相変わらず君もつれない。

そう言って、くすくす、と笑うのは。

天使。
金の髪。白い三対の翼。白い天衣を纏った、夢でしか見ないような。本物の。

(昔。神様を信じていた頃。いつか天使様が助けに来てくれないかと、思ってた。
そんなモノがこの世に居るはずないってことを、思い知るのも、すぐ、だった)

でも。居たんだ。ちゃんと居たんだ。ライドウの傍に居たんだ。俺の神の、傍に。

「天使、サマ……?」

思わず、呆然とつぶやいた俺の声に。

その天使はおやおや、と天使らしからぬ苦い笑いを落とし。ライドウは。
とてつもなく不快そうに、美しい顔の眉根を寄せた。





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