「もう!いつまで笑ってるのよ!」
「だって。あのときの、ピクシーの顔!」
そんなこと言ったって!まさかまさかまさか、そんな格好で来るなんて!
「ごめんごめん。本当は男性体で来る予定だったんだけど」
「…わかった。ルイ様でしょう」
ご名答。と疲れたように返す最愛の友人に心の底から同情をする。
「『へえ、人界にチョコレートを買いに行くのかい』…って?」
「『日本だろう?男性が買うのはおかしいよね。こっちのカタチで行っておいで』…って」
そうそう。そんな感じであっと言う間にこの格好よ、と美しい少女は愚痴をこぼす。
「「もう、せっかくのデートなのに」」
異口同音に同じ愚痴をこぼした二人は、同じように顔を向き合わせ。
くすくすと笑う。
そんな二人の小悪魔を見送りながら。
「連れが待ってるって言ってたなー」
「だよなーあんな可愛い二人組だもんなー。当然、売約済、だよなぁ」
美少女を美少女に奪われてすっかりと毒気を抜かれた男たちはただ、呆然と呟いた。
◇◆◇
「ね。ピクシー」
「なぁに?」
チョコレートの買出しは後にしてさ、と。
せっかく女同士なんだから、と、引っ張っていかれたアクセサリーブース。
「これ、似合うと思う」
「え。で、でもこんなの」
キラキラと光る、イヤリング、ネックレス、ブレスレット。
センスのいい親友の選ぶそれは確かにどれも、繊細で綺麗でとてもいいのだけれど。
「私、今しか、着けられないもの」
「そんなの気にしなくていいのに」
いいから、さっさとチョコレートを買いに行くわよ、と振り切る私に、
プレゼントしたかったなぁ、と拗ねたようにつぶやく親友には申し訳ないけれど。
普段の私じゃ、こんなの。無理だもの。
(ホントは貴方からのプレゼントだから、とても欲しかったけれど、とても)
◇◆◇
「あースゴイ人だったねー!」
「天気がイマイチだから少しはマシだったかも、だけど」
「嘘!あれで?!」
ホントホント、と肯く友人の表情に嘘は無く。
日本の女性って、悪魔より強いんじゃないの、と思わず口走ると。
そういう種族も居るかもね、と悪戯っぽく、長髪の美少女は片目をつぶってみせた。
「で、シュラはどのチョコを誰にあげるの?」
「私、は、あげないよ」
「ええ、どうして?」
シュラからのチョコなら皆、欲しがるのに!あ、そっか。
「皆が喧嘩しないように?」
「・・・じゃなくて、ピクシー」
一応、だけど。バレンタインは日本では女の子から男の子にあげるモノなんだよ。
「あ」
そうか、と納得する妖精に、ほんの少しだけ、意地悪をしたくなる。
「ピクシーは?」
「え?」
「誰に、あげるの?」
そうねーご挨拶代わり、なんでしょ。ロキとかクーとかウリとかその辺適当に。
あ。ルイ様はどうしようかしら。最新作では女性体だったわよね。要らないかしら。
ケルとかどうしよう。獣形態って、甘味大丈夫だった・・・かし、
「え・・・な、何?…シュラ?」
いきなり、両手首を握られて、真正面から覗き込まれて、どきりとする。
「私には、くれないの?」
いらだったような赤い瞳。紅い唇。白い雪に揺れる、黒い長い髪。
あまりに綺麗で、声が出ない私に。その悪魔は困ったように、笑って。耳元で囁く。
「ね、キスしよっか」
――― え?
返事を待たずに、微かに触れたそこはほんのりと暖かく、でも。
ほんの少しの震えが伝わっただけですぐに離れた。
「好きよ」
唇の上で、その言葉を落とした美少女はくるり、と照れたように背を向け。
私も。好き。と、口だけで呟いた妖精の言葉は、ほんわりと宙に浮いた。