明け方の爽やかな空気の中。過ぎる静寂の内で、人は微かに震えだし、悪魔はゆるりと笑う。
「 ヒ ト ツ だ っ て 許 さ な い 」
「・・・」
「 俺 以 外 に お 前 の 心 の う ち に あ る も の な ん か 」
「・・・」
「 全 部 壊 す 」
「・・・」
「 お 前 が 俺 だ け を 見 て い ら れ る よ う に 」
「・・・」
言葉と裏腹に、優しく触れてくる指先は、ライドウの眉間をツと、押さえる。
「!」
途端に人の脳内に流れ込む映像は、悪魔の群れに何もかもが抹消されていく、昨夜の光景。
優しい魔将軍の指示通りに。誰一人苦しむ間すらなく一瞬で。そして。
肉片ひとつ、血一滴も残さずに、美しく全ての生命が完膚なきまでに消去された記録。
「タエ、さんは?」
「新聞社でオニが喰った」
「鳴海さん、は?」
「綺麗なお姉さん達と遊んでいるところを、オルトロスに」
「・・・ゴウト、は?」
「俺が殺した」
――― 大好きだったから、俺が殺した。一瞬も苦しまないように。一番楽に死ねるように。
ふるり、ふるりと震えるライドウを悪魔は困ったように、見やる。
なあ。皆、さ。俺を何だと思ってるんだろうね。世界ヒトツ殺してきた悪魔、なのにね。
「修羅」ってさ、永遠の時を戦い続ける業を持ったモノのこと、だよね。ライドウ。
そんな生き地獄を弱い「人」にくっつけた、酷い呼び名を皆、知ってるくせにね。
――― 知ってて、平気で、哂って、呼んでる、くせにね。
「ね、ライドウ。もう一度、答えてみて」
本当に、俺のものに、なりたい?
他の大切なもの、全部、コワシテ?
「・・・」
震えて答えないライドウに、悪魔は溜息をひとつ、つく。
「即答できないならさ、もう、やめておこう。・・・な、ライドウ」