「……ん」
甘い声、熱い舌、潤む瞳。
飲み物に落としたブランデーが多すぎたか、と、アルコールに致命的に弱い恋人に口付けて。
安眠を促す程度にと、思ったのに、と、臍をかみながら、ライドウは由良の肢体に溺れる。
行きつけのバーのママの言うところの「人修羅さんの、いつもの」が、
ノンアルコールの、それも健康系のドリンクであることを知ったのは比較的最近のこと。
「俺、ホント酒には弱いみたいで。ピクシーとかリンとかは、絶対知らないやつの前で飲むなって」
うるさくてさーと、ぼやいていたのを思い出す。
ハンドルネーム、ピクシーは英国の、リンはアイルランドのプログラマだ。
いずれも人修羅のナカマと称されるほどの能力を持ち、その親交も長く、深く……自分よりも。
キリ、と軽く歯を軋ませて、ライドウは己の独占欲を押さえ込む。
この、無防備で、切なげで、甘い、頼りなげな表情を、今までどれだけの人間が、見たことか。
――― 貴方は、僕の、モノ、なのに。
しとしと、と、微かに響く、雨の音が、男の熱を下げようと努力する。
静か過ぎる空気、翳っていて若干暗いが、まだ昼にもなっていない、時間。
暖かい部屋の、温かい布団の、熱い腕の中で、二羽の鳥はキスを交わし、ときおり鳴声を立てる。
「や、ぁ……ライ、ド、く」
「……呼び捨てに、してくださいと、あれほど」
何度も、頼んで、やっとそれが叶ったばかり、なのに、どうして、貴方は。
――― 僕から距離を置こうとする?
上半身を見られるのを嫌がる恋人のために、着せたままのパジャマの下から手を潜り込ませ、
軽く胸の先端を爪で弄ぶと、ヒクン、と反応する体は、常よりも華奢に、壊れそうに思えて。
昨晩から煙り続ける、喪失の不安が再び赤く熾り、愛撫の手を止めさせる。
「すみま、せん」
疲れているのに。こんな、こと。
自制しながら、自省しながら、離れようとした体は、キュ、と回された腕に止められる。
「やめ、ないで」
目元を快楽の朱鷺色に染めた瞳は、その言葉より、雄弁だ。
「由良、さん?」
「ライ、ドウ、くん、こそさ」
わざと、「くん」をつけ、上目遣いで笑む彼は、その効果をどこまで自覚している、ことか。
もう、いい加減、俺のこと、ちゃんと、名前で呼んで。
もっと、近くに、来て。俺の中に、入って。俺と、ヒトツになって。
――― ね え 、 こ の ま ま 、 俺 と 、ツ ガ っ て 。
呪文のような囁きに理性を飛ばされた男は。
「……仁……ッ」
アルコールに浸されて、甘い残酷な声で、誘い鳴く、鳥の名前を小さく叫んだ。
◇◆◇
「どうして、通称が、人修羅、と?」
「……俺の、下の名前、仁って言うんだ」
「ひとし?」
「うん。人によっては、愛称でジンって呼ぶ、けど、本名は、由良
仁」
「それが、なぜ」
「仕事で組んだアメリカ人がさ……勝手に、つけて……」
(Hitoshi Yura 、じゃあ、ヒトシュラか!……HA!ピッタリだな、Boy !)
あのときの、貴方の困ったような懐かしそうな瞳の色の理由が、今の僕には分かる気がする。
「ぁ……っ、ぃぃ……っ!」
どちらがどの立場でどう愛し、愛されようと。
互いが互いである限り、その幸福の色は違っても、同じ幸福には違いは、無いと。
そう、認識しあえたのは、ごく、最近のこと。
うっかり知らずにブランデーを多めに垂らした紅茶を、飲ませて、しまって。
人が変わったように、肌を求め、愛を乞い、甘える貴方を怯えながら、抱いて。
そして、僕が覚えたのは、違う色の幸せと、気が違いそうな不安。
「あっ、……ん、あぁ……ラ」
腕の中の鳥が囀る、その音が、Rから始まるかどうかに、びくり、と、怯え。
「イドウ、もっ……と……っ」
続く母音がAから I に移るのを、確かめて安堵することを繰り返す、行為。
貴方をヒトシュラと名づけた、その、異国の、男の名は、Dから始まる。
続く母音は、同じく A。そして、繋がる、N。
RとD。舌足らずになると、幼い子供でなくとも判別しにくい、二つの音。
僕か、彼か、どちらかが違う名前なら。こんな想いをすることは、無かったの、だろうか。
「や、やぁっ!……ダ」
明らかにDで始まる単語に、気遣いながら抽挿を繰り返していた男の体が硬直する。
「メ……ッ、ダメぇっ、ライド、……」
……それとも、もっと、早くに、死刑判決を。
己を深く受け入れて、その華奢な腕で脚でしがみついて、甘く首を振って。
あえかな美しい声で囀る、残酷な少年の容をした、鳥。
この状態で、もし、いつか、貴方に、他のモノの名前を呼ばれたら。
……本当に、僕は狂ってしまう、でしょうね。
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後書きは反転です
はい。それで「ヒトシュラ」なんです……。ば、バレテマシタw?
ライドウが仁をどう呼ぶかは、お好みで。(漢字の利点)