SRW 01



「ここ、かな?」
「ここだよ、間違いない」

楽しそうに、クスクスと笑い声さえ聞こえそうな音で、二体の悪魔は囁き合う。

「どこにする?回廊に近い方が、都合がいいよね」
「うん。・・・っと。この橋にしようか?何度かルイが開けているみたいだし、繋げやすい」

赤と、黒。各々異なる色を纏う悪魔たちは、悪巧みの相談に余念が無い。

「じゃ、いっちょ、やりますか?」
「うん。俺たちの可愛い可愛い、弟の、為にね」

そう、言うなり。二体の悪魔はそれぞれの魔力を放出し、大量の悪魔をその場に召喚した。




◇◆◇




「大変だ、ライドウ!」

ちょっと一服と言って出て行った鳴海が、慌てて助手を呼びに戻ったのはその僅か数分後。

「返り橋に大量の悪魔、ですか?!」
「そ、そうなんだよ!まだ動いてないし、夜も遅いから、ほとんど通行人も居ないし、」

被害とかは出ていない、けど。とにかく、恐ろしい数でさ!えっと、百鬼夜行とか、あんな感じ?!

鳴海の報告に、慌てて、身支度を整え、件の場所へと、向かうライドウを。
よりによって、返り橋か!と、嫌な予感に気を逆立てながらゴウトは追う。

『中心に居たのは、赤と、黒のマントに身を包んだ、二体の魔、だと言っていたか』
「ああ。鳴海さんの観察だ。間違いは無いだろう」

((まさかとは思うが。暁の魔王・・・。あの優しい悪魔との約定を、違える気ではなかろうな))
(まさか、また、赤マント?・・・いや、あれは解決した、はずだ。それに、黒だと?)

それぞれがそれぞれの予想を辿りながら、彼等は走る。

「・・・そういえば、確か、アリスの守護者が赤と黒、では無かったか、ゴウト」
『うむ。そうであったな。なるほど、今夜は聖夜だ。その可能性もあるか』

(彼女の呼ばうところの、赤おじさんがベリアル、黒おじさんがネビロスだったはずだ)
((時期が時期だけに、また彼女が何か無茶なお願いを「おじサンタ(・・・)ち」にしたのやもしれぬ))

カツカツと小気味良い靴の音が、静かな夜の街路に響き。
その音を聞きつけた最強の悪魔たちは、罠にかかった美しい獲物を見て、笑む。

「来た、みたいだよ」
「アレか・・・。へえ、やっぱ。趣味いいね。さすが、”俺”」
「・・・面食いだな」
「お前だって、ヒトのこと、言えないだろ?」
「いっそのこと乗り換えるか?キョウ?若い方がいいだろ」
「全く、同じ台詞、返してやるよ。静夜。あと、アイツに撃たれても知らないぜ」

静夜と呼ばれた黒い悪魔は、赤い悪魔を揶揄するように見やり。
キョウと呼ばれた赤い悪魔は、黒い悪魔を呆れたように、見やる。

「よし、じゃあ、囮のコイツらは、魔界に戻すか」
「・・・だね。間違って、アイツに傷でもつけたら・・・怖いし」

言うなり、先ほど呼び出した大量の魔物を、魔界へと送り返し。

「よし・・・行くよ!」
「了解!」

ゲームでも始めるかのように、彼等は楽しげに行動を開始する。

そして。

瞬時に消え失せた大量の魔の気配に、なるほど囮か、と冷静に判断を為し。
カツリ、とその靴音を止めるライドウの前に。
ふわり、と二体の強大な魔の気配が舞い降りた。

「十四代目葛葉ライドウ、だな?」
「・・・何者だ?」

黒い魔の問いかけに、負けずとも劣らぬ美しい黒を魅せる人が冷ややかに返答する。

(ひゅう、声もいいねぇ。ゾクゾクする!)
(静夜!遊んでるんじゃないって!!・・・もう、仕方ない、俺が出るよ)

「何者でも、いい、だろう。・・・悪いが、その首、もらいうける!」

それだけを言い捨てて、赤い魔は戦闘態勢を取るライドウへとそのしなやかな身を躍らせた。




◇◆◇




――― 強い!

繰り出した初手を互いに間一髪でかわし、間をおかず攻防を続ける彼等は同じ感想を脳内で叫ぶ。
(だが、おかしい、これほどの能力を持つ魔が、帝都に居る、とは。・・・しかも)
本気で攻撃して、いない。そもそもが、二体同時に攻撃してくればいいものを。

思って、ライドウは、赤い魔と己の戦闘を、愉しげに鑑賞する黒い魔をうかがう。

・・・一体、何が、目的だ。

「どこの、悪魔だ?何の為に、僕を襲う」
「俺に、答える義務は無いだろ?美人なデビルサマナーさん」

知らぬ気配、聞いたことの無い声。アナライズも何の情報も示さない、未知の悪魔。
けれど、彼等の隠し持つ”何か”が、優秀なる悪魔召喚師の感情をささくれ立たせる。

「確かに。・・・ならば」
――― 力ずくで、答えさせるまで!

「・・・っ」
勢いよく踏み込んだ彼の、退魔刀の切っ先が赤いマントを刻み
避け損ねた、赤い悪魔の肌に、同じ色の線を引く。

「さすが、だね。悪魔召喚師」

傷ついても、楽しげにそう笑う赤い魔。だが、その声は先ほどまでと、違う。

声が、変わった?・・・この、声は・・・。

戸惑う彼を見やりながら、布と化した赤いマントが鬱陶しげに脱ぎ捨てられる。

「!」
『な、何だと!?』

現れたのは、忘れようとしても忘れられぬ、最強最悪の悪魔。
象牙の肌、黒い紋様。放つ光は、先ほどのライドウの攻撃の故に、赤く。

「ちっ、バッドステータス効果付きの刀、とはね」
やるじゃん。デビルサマナー。
にやりと笑む妖艶な表情は、しかし、彼の知っている”彼”とはどこか。

「・・・君達は、何者だ」
また、罠か、と苦く思いながら、一瞬たりとも緩まぬ闘気を昂ぶらせて、ライドウは問う。

「それは、お前が一番よく知っているんじゃないの?」

赤い悪魔を庇うように、黒い悪魔がライドウとの間に立ち塞がり。
彼もまた、全身を覆っていたマントをパサリと脱ぎ捨てる。

「な!」
『どういうことだ!?』

現れたのは、全く同じ顔、同じ体を持つ魔。
わざと違う音質に変換していたのを元に戻したのか、声もまた。彼と同じ、で。

呆然とするライドウ達の前で、黒い彼は赤い彼を愛しげに助け起こす。

「油断したね、キョウ」
「・・・否定はしないよ。静夜」

(仕方ないか。本気でやって、コイツ、傷つけるわけにもいかないし)
(やっぱ、本気出さないと、コイツと戦うのは無理だよ。すげー強い)

黒い魔の腕に抱きすくめられた赤い魔が、甘えるように相手へ縋り。
赤く光る紋様を愛しげになぞりながら、黒い魔はくすくすと笑う。

「赤い紋様も綺麗だね・・・でも、ちょっと、気をあげよっか」
「・・・クス。頼む」

微笑みあい、唇を重ね、わざとのように、舌を絡め、クスクスと笑って。
鏡で映したような彼等は楽しげにライドウの前で睦んでみせる。

――― 美しい悪夢のように。











「「ねえ、ライドウ」」

赤い悪魔と黒い悪魔。
聖なる夜にふさわしい、赤い光と緑の光を灯して、彼等は嗤う。

「「どっちが、お前の人修羅か、当ててごらん?」」




当てれば、ご褒美をあげるよ。・・・クリスマス、だからね。





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悶絶素敵サイト「GIMMICK ROOM 666」様から強奪させていただいた素敵絵で
煩悩のクリスマスを書かせていただきましたっ!
もう素敵なイラストが満載のサイト様ですのでっ!是非、本宅に行かれて、堪能なさってください!
※09/12/25:管理人様のご厚意により、より蟲惑的なイラストに差し替えさせていただきましたっ!

ほんでもって、続きます・・・。こんな所で止めてすみません〜。