SRW 02


「まだ、かな」

品のいい調度品の並んだ、広いホテルの一室。
はぁ、と小さく溜息を付いて、シュラは彼等のことを思う。

――― とっておきのクリスマスプレゼントを取ってくるから、少し、待ってて!
そう、優しく笑ってた、俺の、自称 "兄"達。

くす。
「いきなり、ここに連れてこられたときは、びっくりしたけど」

一年ぶりだね、シュラ。元気だった?
あー相変わらず、綺麗だなぁ〜。やっぱ、お前が一番可愛い。
静夜!抜け駆け禁止!!俺にも抱きしめさせて〜!!あーホントにシュラってば美人さん〜!

傍から見るものが居れば、同じ顔同士で何をやっているんだ、と確実に突っ込まれるような出会いを 思い出して、シュラはくすり、と笑う。

状況が読めず、きょとん、としたまま固まるシュラを見て、彼等は困ったように言ったのだ。

あ、そっか。まだシュラは不安定だから、毎年記憶を隠蔽しちゃうんだったね。
そういえば、そ、だね。・・・早く、 相手(コトワリ)が定まれば、いいのにね。と。

聞けば。
彼等は、過去に別の時空で東京受胎を経た、人修羅なのだと、いう。

夜想曲(ノクターン)を奏でた静夜は、優しい黒い静寂を望む男と共に、シジマのコトワリを。
狂想曲(マニアクス)を紡いだキョウは、赤い狂気の色を伴う半魔と共に、現世のコトワリを、
それぞれ、選択した、らしい。

その、彼等が、また、どうして。
・・・大切な相手を、この”大事な日”に、放置して、まで。

不思議そうに問うてみると、返ってきたのは。

ああ、やっぱり、覚えてないのか〜。ほら、今日と明日はルイの力が最も低下する時期だから。
ルイの魔力で押さえ込まれた、お前のいろんな、記憶や感情が戻っちゃうんだよ。
暴走したり、狂っちゃったところに、敵がつけこんできたら、困るだろ。

・・・だから。
俺を、守るために?コトワリの相手をほっぽって?
情けなくて、申し訳なくて、俯いた俺に、慌てたような声が即行でかけられた、けれど。

違うよ。俺たちがお前と居たいんだよ。可愛い可愛い、俺たちの弟。
そうだよ。アイツとはいつでも居ようと思えば居れるんだし。

くしゃ、と頭を撫でられた感触を思い出しながら、シュラは己を守る部屋の窓辺へと動く。

「綺麗な、夜景」
久しぶりに、見た気がする。魔界でもボルテクスでも、見なかった風景。きらめく人工の灯り。

振り向いて、改めて、部屋をゆるりと見渡して、みる。
おそらくは、日本のどこかのホテル。最上階のスイート。
見えないけれど、分かる。周囲に何重にも魔の結界を施した、万全の避難場所。

ルイによると、この時期は日本が一番、居心地がいいんだってよ。
魔界よりも居心地いいって、すごいよなぁ。

そう、呆れたように笑っていた、静夜とキョウ。

・・・そう、だろうな。魔界は、天界から堕ちたモノが多い、から。
憎む、ということは、それだけ相手を認めている、ということだから、影響も強い。

でも、ここは。
良くも悪くも多様で大らかな、・・・混沌を何よりも愛する、国。

他の地と違って、どれだけクリスマス・カロルが、賛美歌が、巷に響き渡ろうとも。
そこに篭められた祈りも、願いも。この地では、むしろルイの側のそれに、近い、だろうから。
何しろ、25日の夜には、国中でクリスマスツリーを撤去して門松に入れ替える国だ。
そして、ポインセチアを引っこ抜いて、代わりに葉牡丹を植え込んで。
ミサの数日後には、もう寺の除夜の鐘を聞き、その足で、神社に初詣へ向か・・・。

「っ」
ズクリ、と心の臓が痛む。

・・・クス。
馬鹿だな、俺。神社の単語ヒトツで、何で、いきなり連想ゲームを。

ああ。アイツのとこは、名も無き神社、だったか。上手く隠れ蓑に、使ってたよな。
いきなり連れて行かれて、アマテラスに助けてもらったことも、あった、っけ。

引きずり出される記憶は、葛の蔓のようにしなやかで強靭で。
どれだけ引っ張ろうとも、果てもなく千切れもせず。
最強であるはずの悪魔の心臓をギリギリと縛り上げる。


――― ホント馬鹿だ、俺。

・・・自分で、忘れたくせに、忘れさせた、くせに。
アイツを守りたくて。アイツの人としての幸せを守りたくて。

「・・・ちが、う」
違う。やっぱり、嘘吐きだ、俺。

アイツの為だって、大義名分をくっつけて。
本当は。全部。自分の為、だった、くせに。

「だっ・・・て」
だって、忘れないと、俺、きっと、絶対に、アイツを。
忘れてもらわないと、俺。いつか、絶対に、アイツを、さらって。

「ライ、ド・・・」
会いたい、会いたい会いたい会いたい会いたい!

ほら、思い出すだけで、これだ。

アイツが居ないと、まともに、息も、できない。

――― 忘れないと、生きていけない、のは。本当は、俺の。




◇◆◇




「即答かぁ」
「まあ、予想の範疇だったけどね」

冷ややか過ぎるほどの美声で落とされた、ライドウの返事を聞いて。
二体の悪魔は今までで一番嬉しそうに笑う。

「でもさぁ。こういうときはさー、少しぐらいは迷ってみせるのがお約束だよー」
「クスクス。まあ、いいじゃん。心技体、オール合格って、ことでさ・・・後、愛情の深さも

一個でも不合格なら、うっかり殺してやったのに。と、冗談めかして零す言葉は本音だろう。

「あと、こういうときって、正解した正直者には”3つともプレゼント”が、お約束じゃね?」
「・・・4P?・・・君んトコ確か「浮気、コレを禁ず」とかって、”遊戯”かけてなかった?静夜」

何だかとんでもないことを言い出した気がするが、とりあえずは沈黙を守るライドウ達だ。

「クスクス。お前こそ、久しぶりに、スティンガーかまされるんじゃないの?」
「うわぁ。どっちも万能で即死かよ。物騒だな」

愚痴なのか惚気なのか分からぬ、恐ろしい会話を交わした後。
彼等はまったく同じ仕草で、ライドウの方に視線を向ける。

「「正解のご褒美に、連れてってやるよ。悪魔召喚師。お前の人修羅のところに」」

途端。

ゾワリ、と周囲の大気が変わる。
異界化か!と思う間もなく、黒い影のような触手が幾重にもライドウにしなだれかかる。

『待て!貴様等、ライドウをどこに連れて行く気だ!!』
「先に行ってるぜ、キョウ!・・・黒猫さんに説明よろしくな!」

ご機嫌そうな黒い声に返るのは、苛立ったような赤い声。

「・・・また、勝手に役割分担を・・・。その大事な荷物、ちゃんと送り届けろよ!」
「了解〜!」

「途中で開梱してバトって遊ぶなよ!!」
「(ちっ、バレてたか)」

「静夜!返事は!?」
「・・・了解。キョウ」





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4Pも楽しそうですが。
・・・管理人の文章能力がついていけそうにありません。

※スティンガーはマニアクスの赤い彼の技です。ライドウで言えば、的殺。