「ラ、ライドウ?わ、分かったからさ。いい加減に手を離してくれない?」
「嫌です」
「嫌です……って、おーいライドウさーん?さっき頭か、どこか打ったんじゃ……」
「離したら、貴方どこかに行く気でしょう?」
「う。だ、だって、ココ俺の世界じゃないし、早く帰らないとロウやボウが機嫌を悪くするといけないし。大体お前はワカが担当だし」
『ああ、そのことだが、ワカとか名乗る者からお前に「しばらく帰ってこなくてもいいよ」と、探偵社に連絡が来ていたぞ』
「はぁ?!ゴウトさん、それホント?!」
『確かだ。「そのうち呼びに行くから。それまでゆっくり楽しんでおいで」だそうだ。』
「あ」
『何だか分からんが、「いい動画が撮れた」とか「今日は祝杯です」とかも言ってたぞ』
「な」
(ワカのバカ!何を撮って楽しんでんだ!!おまけに祝杯って何だそれは!!!)
「ふふ。家族公認でお泊りデートですね」
「……お前本当にライドウか……?」
あの後、少し考える時間が欲しいと逃げを打ったシュラに、ライドウは握った手に力をこめつつ、
にっこり笑って言ったのだ。
「じゃあ、貴方が考える間、一緒に帝都見物でもしませんか?」と。
…………そして一度も手を離されぬまま、今に至る。
あちらこちらと嬉しげに連れ回され、筑土町にやってきたのは夕暮れ時だった。
事後処理を押し付けられた鳴海不在の銀楼閣、その屋上に二人は居た。
ワカの伝言とやらを伝えるだけ伝えて、ゴウトは既に居ない。
「……ずっと、この時間が苦手でした」
「ん?」
町並みを見下ろしながらしばらく黙っていたライドウが、ふいに脈絡無く話し出す。
「夕闇が迫り、落陽が赤と金の光を投げてくるこの時間。わけも無く悲しくて苦しくて、よく屋内に
逃げ込んでいました。……今にして思えば」
貴方の色だったんですね。
そう言って微笑んだライドウの瞳は、ひどく傷ついた色をしていた。
「……僕ごときが貴方を留めておけないのは分かっています。だけど、もう無理なんですよ」
何が無理なのか、どう無理なのか、それを聞いてはいけない気がして、シュラは黙ったまま、
ライドウを見る。
「だから、もし僕の手を離して、また、どこかに行くのなら」
言いながら、ライドウはつないでいたシュラの手を、自分の首に当てた。
「どうか、この手で僕を楽にしてください」