倒れたシュラを抱き起こし、横抱きにして、雷堂は座る。
フェンリルは業斗と共に、つい先ほどライドウ達のところに向かった。
――― どうか主様を頼む。……父上達は、助けに来ることすらも出来ないのだと言い残して。
気を失ったままのシュラの手を、ふわりと雷堂は握ってみる。
仲魔の管を操るときなら、この指先で十分なのだ。マグネタイトの移動は。
……が、それらしき反応は無い。
(……マグネタイトを自分で喰えない悪魔など、出会ったことも無い。
生まれたばかりの赤ん坊ですら、母の乳を吸うぐらいはできるものを)
――― それほどに。本当は。悪魔となった自分を、厭うていたか。
悪魔どもがこぞって、お前に優しいのは、その瑕の深さを、痛みを、知っている、故か。
十四代目葛葉雷堂を襲名した彼ほどのモノにして。
それはあくまで悪魔側から積極的に摂取するものであり、
人間から強制的に悪魔に与えるモノという認識は無いに等しく。
故に、その方法も多くは思いつかなかった―――
「手では無理か」
(うーん。やっぱり指じゃ無理かな)
……フ。
「そういえば、そんなことを言って、確か」
あのときの「彼女」が選んだ手段を思い出して、雷堂は苦笑し。
暫しの後、真顔になり、眉を寄せる。
……おそらく、もうあまり時間は無い、やむを得ぬ、か。
「……無体をする。許せ」
溺れたものへの、人工呼吸と思えば良い。
それが己の何かを抑える為の言い訳に過ぎぬと、頭のどこかで自らを罵りながら。
雷堂は、冷え切った悪魔の唇に、自らのそれを重ねた。
「……っ。くそ、駄目か」
生き物であれば、これほどに何かに飢えていれば、生存本能として自然に吸収するはずなのに。
それでも他者からのそれをかたくなに拒むのは、何の故なのか。
何かで、読んだことがある。ゆるやかな餓死を望み、絶食し続けた。あれは「巌窟王」の父親、か。
「……死にたいのか」
焦った声で雷堂はシュラの顎を押さえ、口を開かせる。
微かに感じる吐息に安堵の溜息をつきながら、今度は深く口付けてその冷えた舌を絡めとった。
これでも駄目なら。後はもう手段は一つしか残らない。
交わって、精と共に直接身体に注ぎ込めばいいのだ。……簡単で、確実、だ。
それを分かっているから、フェンリルは人払いしたのであろうと。
……むしろ悪魔の中には、そちらを好むモノの
方が多いぐらいだと。
悪魔と戦う者としての酷薄な知識は、そう、冷静に告げる。
だが、それは。
我には。
……今の、お前には。
できぬ。
「……っ、抵抗するな!受け入れろ!!」
息を継ぐ、その間に雷堂は叫ぶ。
死ぬな!お前はまだ死ねぬのだろう!!
――― アイツを、まだ一人にはできぬと、お前も分かっているのだろう?