ツクヨミ 2



「……説明如何では、我らに刃向かうおつもりですか?十四代目葛葉ライドウ」
静謐な音を紡ぐ紫色の口唇。それにかつての母を重ね合わせたのはもう遙か昔のように思う。


「説明如何では、それも止むなしかと」
「……お目付け役は如何に?」
『今のこやつを止めることは我にも不可能だ。……そもそも此度のこれはそちらの明らかな』
逸脱行為では無いかとまでは言わずに沈黙する黒猫にヤタガラスの使いもまたしばし沈黙する。


「……あまりにも、強すぎる、魔力を感じた、と数件の報告がありました」
報告があった以上、このヤタガラスの機関としても放置できなかったのだと、暗に言う。
「また、管に入らぬ悪魔を連れているサマナーが居る、とも」
己が制御できぬ悪魔を連れ歩くような、致命的な愚を犯したのはそちらだ、と。


『それは既に連絡したはずだ。ヤツは異なる世界のモノ。その魔力はあまりにも強大かつ甚大、
故にライドウをしても、管に入れるは叶わぬが、その性は善にして良。問題は無い、と』
「それで納得しない者も居ります」
それほどに美しい猛獣を、首輪も鎖も付けぬまま連れまわして、周囲に畏れるな、とは、笑止。


「……では、どのようにすれば納得を?」
おそらくは自らその拘束に甘んじているであろうシュラを、自分からは解放することもできぬライドウ が耐え切れぬように問う。


「しばらく我らにお預け願いたいと」
『どうするつもりだ』
「悪いようにはしません。危険が無いと分かればお返しします」
「……コイツのような者を使役している時点で、その言に信憑性は無い」
先ほど叩きのめした男を、爪先で蹴り上げながらライドウが返す。


「あくまで、従わぬと」
「答えるまでも」
「では、残念ながら、十四代目葛葉ライドウ、そなたを拘束します」


薄い唇がそう言うか言わないかの内に、周囲を複数の人間が取り囲む。その数およそ三十。

(無駄なことを)
そう心中で呟いたのは、右の眉を少し上げた後に凄絶に微笑んだライドウだったか。
それとも、勝負の邪魔にならぬよう、シュラの傍に守るように駆け寄ったゴウトだったか。

おそらくは「以前の彼」しか知らなかったであろうヤタガラスの手の者は、しばらくの後、
あっけなく全員が地面に突っ伏した。


「しばらく見ぬ間に、強く、なりましたね。十四代目」
感嘆とも言える声音でヤタガラスの使いが呟く。
「しかし、どれもが峰打ちとは。真に我らを裏切るつもりでは無いということですか」

(いや、単に、本来は争いを好まぬシュラの気持ちを慮ってのことだろうが)
勝手にそちらで都合よく受け取ってもらえるなら重畳、とゴウトは沈黙を守る。
また、ライドウは言うまでも無く。


「では、この者を納得させられれば、全ては不問としましょう」
「……やっと、出番か。待ちくたびれたぜ。ヤタガラスさんよぉ」

聞き覚えのある太い声と、ライドウに負けずとも劣らぬ凄まじい気。さすがに眉根を寄せたライドウが 振り向くと、だしゃ、と独特の声をあげて、葛葉一族最大の問題児がその白い歯を見せた。


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二行目は小説からネタをいただきました。