ツクヨミ 3



「この程度のことで、あなたがヤタガラスの言いなりになるとは、思いませんでしたが?」
先ほどとは全く違う緊張感を持って、ライドウはその男に対峙する。

着流した着物の下に曝布(サラシ)をぐるぐると巻きつけ、 無数の管を差し込んだその男。名は葛葉キョウジ。
その名に「狂」の字を持つ彼は、その言動も性格も正に「狂」たる悪魔召喚師。 またその能力も。

「そういやぁ、そうだなあ。だが、お咎め無しで、思いっきりお前と闘えるってんだから、 乗らない手はねぇだろう」
その狂気が交じる表情さえ無ければ、端正とも言える顔で男はにかりと笑う。

「それに、その悪魔。お前がそこまで入れこむほどの逸品なんだろ」
そう言って、舐めるようにシュラを見る。

なるほど。今は能力を消しているようだが、それでもビンビン響いてきやがる。 確かにこいつは悪魔召喚師なら誰でも狂いそうなベッピンだ。手に入れてぇ、啼かしてぇって涎が出るぜ。

「安心しな。ライドウ。お前を倒したら、俺がそいつを管に入れて可愛がってやるよ」

あからさまな挑発。
以前のライドウなら熱くなったであろう、それを、今のライドウは冷たく切り捨てる。

「無理でしょうね」
「……何だと?」

「逆立ちしても、貴方ではシュラを管に入れることはできない。そして」

――― 今の僕が貴方に倒されることも、また、けしてありませんよ。

(……こいつは。正に"狂った"か)

一分の隙も無い構えで、ゆうるりと微笑むライドウが持つ「狂気」に近い気に、さすがのキョウジも
一瞬たじろぐが。その直後、心底嬉しそうに、にやりと笑うと、同じく臨戦態勢に入った。




――― 強い。

以前会ってから、さほどの月日は経っていないというのに、こいつのこの強さは何だ?
その銃撃の鋭さも、剣技の冴えも。何より、その悪魔の使役の様は別人だ。


――― 二体召喚、か。いつのまに。それも忠誠度はMAX。いや、それ以上にさえ。

……召喚師の指示以上に、仲魔どもがその能力を出しているように思うのは気のせいか?
うっかりと的をはずした攻撃が、あの未知の悪魔の方に行ったとき、このヨシツネは自らそれを止めに動いたように見えた。己が主人の命令が出るその前に。


だが、お前がどれだけ強くなろうが、俺が負けることなんぞ、ありえねぇ!

「だっしゃ〜!!」

押され気味だったキョウジが吠え、大量の管を一度に操る。
ライドウの仲魔を一体ずつ削ぐ戦法に変えた彼は、まずは自分の仲魔を大量消費する形でそれを為そうとした。


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