ツクヨミ 5



キィン……!
「?!」
耳障りな音と共に、銀糸のような細い何かがシュラの周りを取り囲む。

不思議そうに首を傾げたシュラと、不快そうに眉を寄せたライドウとキョウジの耳に
「そこまでです」
と涼やかな声が届いた。

「ヤタガラスの使者?!」
「……えっと。これは結界?かな?」
『この者を納得させれば不問、といった先程の言は?!』

予想外の展開に、いずれもが疑問の声を上げる。

「……キョウジを納得させたのは十四代目では無く、その悪魔。条件に、合いません」

――― 詭弁を!

憤るライドウたちの横で、キョウジが呆れたように呟く。
「おいおい、いくらあんたでも。一人の結界でこいつを止められるわきゃ、ないだろ」

実際、既にシュラは何の苦も制限も無く、結界から出ようと動いていた。

が。
何かに気付き、ピタリと足を止め、苦笑する。

「……見た目に似合わず、やることがえげつないね。キレイなお姉さん」
「どうしました、シュラ?」
「これ、見える?ライドウ」
「な!これは!」
『……ぬぅ』

銀糸の結界をシュラが指で引っ掛けると、その長い糸がピンと伸び、何かに続いているのが分かる。その先を追ってみると。

「阿房か!さっきお前らを襲ったヤツラじゃねぇか!!」

シュラを監視していた者も含め、ライドウを拘束しようとした数十人の人間。その内、何人かは起き上がり、何人かはまだ倒れ付し。……そして、結界の糸はその全ての人間の心臓に繋げて構成されていた。

「つまり、結界を破ると」
「全員、死ぬ。よね」
はぁ、とシュラが呆れたように溜息をついて上を向く。

「何言ってやがる!お前の敵だろうが!死んでも困らない、どころか一石二鳥だろ!!」

最早どちらの味方か分からぬ言を喚くキョウジに、シュラが困ったように笑いかける。
「……それでも。俺はこんなふうに、無意味にヒトを殺すのは、嫌だよ。キョウジ」

『……この言を聞いて、ヒトとして(・・・・・)何と答える?!ヤタガラス!!』
珍しく激昂するゴウトの声にも、涼やかな声は怯まない。

「……なるほど、確かにその者の性は間違いなく、善にして良。しかし、それだけのモノを管理下に納めずに放置することもまたできません」
「……で、俺をどうしたいの?キレイなお姉さん」
「……」

結界の内から、シュラの澄んだ瞳で射抜かれ、さすがに使者も言葉をつまらせる。
「……上の指示を仰がねばなりません。それまでは貴方を」
この場に拘束します。とシュラに答えかけたその時。

カッ!

目を焼くような光がその場に発生し、瞬時にヤタガラスの使者が結んだ印と結界も消失した。

「……遅くなりました、主様」
「ううん。ありがと、リン。ちょうど良かった」
傍らに跪くクー・フーリンに礼を言いつつ、
ごめんね。わざわざ来てもらって、とシュラが微笑む先には。

眩いほどに光り輝く一体の悪魔と、赤い玉を首からかけた黒い鳥が宙に浮かんでいた。


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「こんなことなら、さっき全員、たたっ斬っておけば!!」
「……おい待て。それ、お前もダメダメだから……ヒトとして」