Doppelgänger 4




……怒涛のような混乱状態の後、結局はシュラの戦術通り、ジャベリン・レインをぶちこんだ後に、
イワクラの水を大量放水することで、あっさりと戦闘は終了した。

「……む。ここは?」
「正気に戻った?マーラ?」
むぅ、とした表情で冷たくマーラを見上げるシュラである。

「な!なななななな!お嬢!!何でここに」
「……その呼び方はやめなさいと何度言えば」
あー頭痛い、と呟きながら、頭を抱える姿はやはり傍目に見ればものすごく可愛らしい。

……が。
その可愛らしい少女の前で、「元気のないマーラ様」が文字通り「平身低頭」謝り倒す様子を傍観
している周囲の男性陣は、何だか見てはいけないものを見ている気分満載だ。

「……ライドウ」
「……何か?雷堂」
「彼女、は"何者"だ」
「……直接、本人に聞いてください」
「お前から聞けと言われた」
「……そう、ですか」

そのまま黙り込んでしまった二人のところに、やや疲れた足取りでシュラがやってくる。

「え、と。マーラは魔界に帰らせることにしたから。とりあえず、それでいいかな?ライドウ?
ヤタガラスの依頼に問題無い?」
「はい。アカラナ回廊を突発的に走り回る18禁外道を何とかしろ、とのことでしたから。
もう出ないのであれば問題ありません」

「あと、雷堂さん、業斗さん」
申し訳なさそうに唇をかんで、シュラが二人に向き直り、頭を下げる。

「ごめんなさい。嘘つくつもりはなかったんですけど。私、見たとおり、悪魔、なんです」
『シュラ、が本当の名前か?』
「それは"通り名"です」
「では、"カオル"というのは」
「私が人間だったときの名前です」
『「……人間だった(・・・)?」』

「雷堂、業斗。それ以上は」
制止しようとするライドウをシュラが遮る。
「いいよ。ライドウ。大丈夫」
知っててもらうほうが、後々楽だよね。と、どこか痛そうに微笑むシュラにライドウは、それ以上何も言えなかった。


◇◆◇


「じゃあ、また。雷堂さん。業斗さん」
「ああ、また会おう。カオル、いやシュラ殿」
『そうだな。お前とはぜひまた会いたいものだ』
名残惜しげに別れの挨拶を交わす2人と一匹を、もう片方のライドウとゴウトは複雑な思いで見る。

その視線も知らぬ気にシュラは何かを思い出したように、雷堂の方を向いた。

「あ、そうだ。雷堂さん」
「え?」
「ちょっと、目をつぶってください」
「こ、こうか?……え?」

左手を伸ばしたシュラが、雷堂の右目の瑕にそっと指先を触れさせる。

「シュ、シュラ殿?」
「まだ、動かないで」
『どうした?』
「うーん。やっぱり指じゃ無理かな」
「?」
「えと。すみません。ちょっとしゃがんでもらえます?」
「わ、わかっ……え!」

「「「「……な!」」」」

『『ほう』』

学帽をクルリと90度回したシュラに、右目蓋を優しく口づけられ、雷堂は混乱状態。
……そして、周囲は恐慌状態だ。

……キチ。
(『ラ、ライドウ。耐えろ。抜くな』)

…………カチリ。
(『銃も抜くな!』)

「シュ、シュシュシュ、シュラ殿、な、何を?」
「どう?良くなった?」
「……! そう、言えば」
ライドウの暴走とゴウトの苦労も知らぬシュラがにこりと雷堂に問うと、「あること」に気付いて雷堂が右目に手をやる。

「瑕にあまり良くない『気』が残っていたみたいだから、取ってみたんだけど。どうかな?少し、視力戻ってない?」
「う、うむ。……すまぬ。何と礼を言えば、いいか」
「ううん。今日は雷堂さんと業斗さんに会えて、嬉しかったから。こっちこそ、そのお礼」
「……///」
満面の笑みのシュラと、赤くなって俯く黒衣の悪魔召喚師が並ぶ様は、どこかでよく見るいつものバカップルの図だ。

「………………」
(『だから、管も抜くなっ!!』)

「んじゃ、これからもライドウをよろしくね!」
そう言って、雷堂達に手を振りながら「おまたせ〜」と戻ってくるシュラに、あっさりと毒気を抜かれ、戦闘モードを解除したライドウは、ちらりと自らの分身を見る。

口づけられた瑕をそっと指で触れながら、どこか苦しげに細められる瞳。
ただ一人の姿だけを追って熱を帯びる視線。
いつかどこかで見たような、そのカゲボウシを見ながら、ライドウは諦めたような溜息をつき。

「……また……厄介そうなのが……落ちましたね……」
「〜〜〜ああ。ホントにまったく。……困ったご主人様だぜ」
同じく、混沌王の仲魔達も深い溜息を落とした。



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「な〜るほど。お嬢の知り合いなら、我に不感症なのも道理だな。ワッハッハッハ」
「……それって、どういう意味なの?マーラ」
「スカートでジャベリン・レインかますお嬢に、我の生唾など勝てるはずが無いわ」
(……忘れてた……)