裁きの天使 3



「ウリエル」
小さな声でシュラが話しかける。

「はい」
静かな声でウリエルが答える。

「……いいの?」
「私はこの場を見届けるのが役目。私が手を出せば、それは私の手柄となってしまう故」
「そう」

――― じゃあ、仕方、ないね。
そう悲しそうに呟くと、シュラは彼を取り囲む12体の天使全ての急所に、瞬時に技を打ち込み、
絶命、させた。……彼らが、悲鳴をあげる時間すらも、与えずに。

そのまま苦しげに俯いたシュラの頭上に、裁きの天使がゆるりと降りてくる。

「!」
思わず跳びだそうとするライドウをクー・フーリンとロキが必死で止めた。

(なぜ、止める?!)
(あいつは、まだ、シュラを傷つけたりはしない)
(少なくとも、今は何もしません。どうかこのまま)



「主様」
ふわりとその姿をシュラの前で静止したウリエルは、静かな声で以前の主を呼ぶ。

「ん?」
シュラが顔を上げてウリエルの瞳を見ると、眩しそうに目を細めて大天使は言葉を続ける。

「貴方がここに居られることを知るものは、もう天界にはおりません」
「……そう」
「ですが」
「うん。俺が居る限り、いずれは時間の問題、だね。……早く、行かないと
「はい」

「ありがと、ウリエル」
――― ワカに情報を回してくれたのも、おまえ、だね。

「……いえ。礼には及びません。貴方を殺すのは(・・・・・・・)()ですから」
――― それまでは。私以外の誰にも、貴方を傷つけさせなど。けして。

「そう、だね。……また、おいで。今度は俺を殺しに」
――― 待ってる、から。

「……はい。……貴方の腕が、治られた、頃に」
――― 必ず。

そこにあるのは純粋な、愛と憎しみと信頼と……後悔?
信じられない内容の会話を交わす、悲しい元主従を。ライドウは驚愕の目で見る。


「じゃあ、また。気をつけて、お帰り、ウリエル」

微笑みかけるシュラの顔を、狂おしそうな瞳でしばし眺め、またふわりと大天使は姿を消し。

「……っ、シュラ!」
「主様!」

消えたウリエルの残像を見送るように佇んでいたシュラは、そのままカクリとその場にくずおれ、
と、同時に周囲の異界化も解かれた。




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