「ウリエル」
小さな声でシュラが話しかける。
「はい」
静かな声でウリエルが答える。
「……いいの?」
「私はこの場を見届けるのが役目。私が手を出せば、それは私の手柄となってしまう故」
「そう」
――― じゃあ、仕方、ないね。
そう悲しそうに呟くと、シュラは彼を取り囲む12体の天使全ての急所に、瞬時に技を打ち込み、
絶命、させた。……彼らが、悲鳴をあげる時間すらも、与えずに。
そのまま苦しげに俯いたシュラの頭上に、裁きの天使がゆるりと降りてくる。
「!」
思わず跳びだそうとするライドウをクー・フーリンとロキが必死で止めた。
(なぜ、止める?!)
(あいつは、まだ、シュラを傷つけたりはしない)
(少なくとも、今は何もしません。どうかこのまま)
「主様」
ふわりとその姿をシュラの前で静止したウリエルは、静かな声で以前の主を呼ぶ。
「ん?」
シュラが顔を上げてウリエルの瞳を見ると、眩しそうに目を細めて大天使は言葉を続ける。
「貴方がここに居られることを知るものは、もう天界にはおりません」
「……そう」
「ですが」
「うん。俺が居る限り、いずれは時間の問題、だね。……早く、行かないと」
「はい」
「ありがと、ウリエル」
――― ワカに情報を回してくれたのも、おまえ、だね。
「……いえ。礼には及びません。貴方を殺すのは、私ですから」
――― それまでは。私以外の誰にも、貴方を傷つけさせなど。けして。
「そう、だね。……また、おいで。今度は俺を殺しに」
――― 待ってる、から。
「……はい。……貴方の腕が、治られた、頃に」
――― 必ず。
そこにあるのは純粋な、愛と憎しみと信頼と……後悔?
信じられない内容の会話を交わす、悲しい元主従を。ライドウは驚愕の目で見る。
「じゃあ、また。気をつけて、お帰り、ウリエル」
微笑みかけるシュラの顔を、狂おしそうな瞳でしばし眺め、またふわりと大天使は姿を消し。
「……っ、シュラ!」
「主様!」
消えたウリエルの残像を見送るように佇んでいたシュラは、そのままカクリとその場にくずおれ、
と、同時に周囲の異界化も解かれた。