この、凄まじい喪失感は何だ。
カエセ、カエセと。
頑是無い幼子のように泣き喚くこの心の惰弱さは何だ。
この、凄まじい飢餓感は何だ。
ホシイ、ホシイホシイホシイホシイホシイと。
餓鬼のように暴れまわるこの愚かな心の在り様は何だ。
「君がそれほどまでにシュラに惹かれているのは、君の中にシュラの命があるからだ」
それは、嘘では無かった。
けれど、真実でも無かった。
……そう。
違う。
僕の中に貴方の命があったから、貴方を愛したのではなく。
僕の中に貴方の命があったから、耐えることができたのだ。
――― 貴方の、存在の不在を。
ずっと、側に居たのだ。
ずっと、傍に居てくれたのだ。
貴方を忘れさせられていた、あの長い苦しい時ですら。
貴方の姿は見えなくとも、貴方の命は僕の中にあった。
だから、耐えられたのだ。あの喪失に。
この飢餓に。
――― カエセ。だと?
ああ、何て愚かな。
……間違えるな。
それは本来お前のものではない。
あの優しい悪魔が貸し与えてくれたもの。
身の内に、ふわりと暖かさを灯してくれる、彼自身のような柔らかな光。
あの優しい悪魔の命の光。
――― ホシイ。だと?
あの肌も、あの口唇も、あの瞳も、あの腕も、あの爪も、あの脚も、あの命も。
欲しい、だと?
……愚かな。
お前にそのような資格などあるものか。
己の醜さを見るがいい。
その醜いモノをあのキレイな生き物に蔽いかぶせるのか。
そして、誰にも見られぬように閉じ込めるのか。
……いいや。それどころか。お前が真実恐れているのは。
――― カツン。
そう遠くない所より、靴音が響いたことに気づき、男は思考の闇から顔を出す。
――― カツン。
聞き覚えのあるその音に、男はゆっくりと立ち上がり、態勢を整える。
「新月でも無いと言うのに」
大声で笑い出したくなるような心地に襲われながら、男は皮肉気に呟く。
「心の闇に、呼ばれて来たか」
――― カゲボウシ。