鵺の啼く夜 〜暗き道〜 5



「ヒヒヒヒヒ……」
そのおぞましい笑い声が、今の自分には快い。

「オマエ……ナンテ……シンジマエヨ……!」
「珍しく、同感だな」

消えてしまえば、いい、のだ。このような愚かな己など。
しかし、今は()だ死ねぬ身の己を思い出し、ちょうど良い代替物を見るように、その魔人を見据え。

ギン、と。
ライドウは切りかかってきた悪魔の刃を、己の刀で受け止めた。楽しげに嗤いながら。


「……カッコツケヤガッテ」
やがて、弄ばれていると知ったか、憎憎しげにカゲボウシが毒づく。


「オレハ、オマエダ」
「そう、かもしれんな」
黒く身を染めたその姿。毒を吐き散らすその口。触れるもの全てを壊そうとするその手。

だからこそ、その己は殺さねばならぬ。滅さなければならぬ。でなければ傷つける。大切なものを。

ライドウの心中を読んだかのように、戦いの内で、カゲボウシはせせら笑う。


――― 刃!

「縛ッテシマエバイイ」
それほどに、欲しいモノなら。
「黙れ」


――― 壊!

「閉ジ込メテシマエバイイ」
それほどに、失いたくないモノなら。
「黙れ」


――― 塵!

「犯シテシマエバイイ」
「黙れ」
「殺シテシマエバイイ」
「黙れ」
「ソノ退魔刀ナラ、可能カモシレヌ」
「……」

攻撃をすべてガードし、確実に相手の体力を殺ぎながらも、刻まれて血を流すのはライドウの心。


抱キシメテ、オ前ノ心臓ト アヤツノ心臓ヲ 共ニ ソノ退魔刀デ貫ケバいい。
モウ、ソレデ、アヤツハ 永遠ニ、お前ダケノものダ。


「……黙れ」

もはや、その囁きは、カゲボウシのものか、己のウチのものかも、分からず。


「身ノ内ニ 残ル、僅カナ命ヲ 返スコトニスラ 怯エ、手モ 触レラレヌトハ、愚カナ」
「っ!黙れ!」

惰弱なる己を突きつけられて、激昂したライドウの刃はカゲボウシのHPを全て殺ぎ落とす。

「クックックッ」
滅せられることに何の苦痛も感じぬようにソレは笑う。

当然だ。それは己の影。消しても消しても、消えることは無い。己が存在する限り。

「セイゼイ、ガンバリナ」
――― コノ世ノ地獄デ。

「……ジャアナ」

消えうせるそれを最早一顧だにせず、己の心の醜さに耐える男は、やがてビクリと顔を上げる。


傍に。
いつのまにか。
己がもっとも畏れる相手が居ることに、気づいて。




next→

←back

帝都top