「ヒヒヒヒヒ……」
そのおぞましい笑い声が、今の自分には快い。
「オマエ……ナンテ……シンジマエヨ……!」
「珍しく、同感だな」
消えてしまえば、いい、のだ。このような愚かな己など。
しかし、今は未だ死ねぬ身の己を思い出し、ちょうど良い代替物を見るように、その魔人を見据え。
ギン、と。
ライドウは切りかかってきた悪魔の刃を、己の刀で受け止めた。楽しげに嗤いながら。
「……カッコツケヤガッテ」
やがて、弄ばれていると知ったか、憎憎しげにカゲボウシが毒づく。
「オレハ、オマエダ」
「そう、かもしれんな」
黒く身を染めたその姿。毒を吐き散らすその口。触れるもの全てを壊そうとするその手。
だからこそ、その己は殺さねばならぬ。滅さなければならぬ。でなければ傷つける。大切なものを。
ライドウの心中を読んだかのように、戦いの内で、カゲボウシはせせら笑う。
――― 刃!
「縛ッテシマエバイイ」
それほどに、欲しいモノなら。
「黙れ」
――― 壊!
「閉ジ込メテシマエバイイ」
それほどに、失いたくないモノなら。
「黙れ」
――― 塵!
「犯シテシマエバイイ」
「黙れ」
「殺シテシマエバイイ」
「黙れ」
「ソノ退魔刀ナラ、可能カモシレヌ」
「……」
攻撃をすべてガードし、確実に相手の体力を殺ぎながらも、刻まれて血を流すのはライドウの心。
抱キシメテ、オ前ノ心臓ト アヤツノ心臓ヲ 共ニ ソノ退魔刀デ貫ケバいい。
モウ、ソレデ、アヤツハ 永遠ニ、お前ダケノものダ。
「……黙れ」
もはや、その囁きは、カゲボウシのものか、己のウチのものかも、分からず。
「身ノ内ニ 残ル、僅カナ命ヲ 返スコトニスラ 怯エ、手モ 触レラレヌトハ、愚カナ」
「っ!黙れ!」
惰弱なる己を突きつけられて、激昂したライドウの刃はカゲボウシのHPを全て殺ぎ落とす。
「クックックッ」
滅せられることに何の苦痛も感じぬようにソレは笑う。
当然だ。それは己の影。消しても消しても、消えることは無い。己が存在する限り。
「セイゼイ、ガンバリナ」
――― コノ世ノ地獄デ。
「……ジャアナ」
消えうせるそれを最早一顧だにせず、己の心の醜さに耐える男は、やがてビクリと顔を上げる。
傍に。
いつのまにか。
己がもっとも畏れる相手が居ることに、気づいて。