既に、感じすぎて力の入らぬ悪魔の両脚の間に、ヒトはすい、と己の身体をすべりこませる。
「口付けても、いい、ですね」
返事を求めぬ疑問をその耳朶に落とすと、体位を変え、蜜を溢れさせるそこに顔を埋めた。
残酷な身体だ、と、ヒトはまだ思考能力の残る頭で思う。声を耐えても、動きを抑えても、放つ光が快楽の
度合いをあからさまに示す。人の様態を取っていても、うすらと透けて見える、寒色から暖色へと移り行く
その光は、同じ色に蕩けた声と同じように彼を煽る。
――― 僕は、「雌」の身体も、「雄」の身体も、同じように、よく、「知って」いるのに。
違う意味で「人でなし」であるこの男は不思議に思う。
魔と人の間で戦う彼らには、この行為は戦いの範疇。
自らの気を律し、けして相手に気を奪われること無く、気を奪う。
快楽を与えるのも、甘い言葉を落とすのも、優しげな愛撫を行うのも、作戦であり戦法の内。
そして、自分は、その他の能力と同様に、誰よりも優れたモノであった。のに。
なぜ、今。こんなにも。我を忘れ、ただの男のように、溺れて、いるの、だろう。
敵は、おそらくは、このような戦いなど、したことも無い、初心な、今は、「少女」、であるのに。
先ほど見つけた弱点を執拗に指で責めたてながら、ヒトは潤みの中に隠れた珠を探す。
ほどなく見つけたそれを舌先でそっとつつくと、甘い声の音程が上がり、キュと中指が圧を感じ。
たまらずその愛撫を深めると、悪魔が初めて声をあげて救いを請うた。
「……や!い、やぁ!たす、けて。ねぇ、たす」
その言を都合の良い方向に受け取ったヒトが舌と指の動きを更に強いものにすると、
悪魔の言葉は長く細い悲鳴へと変わり、やがてヒトの指を内に咥えたまま、一つの波を越えた。
その身から美しい薔薇色の光をほとばしらせて。
硬直したままの愛しい肢体を、嬉しげに笑みを浮かべて視姦しながら、なごりおしげにすいと指を抜き、
とろりとこぼれる蜜をそのまま重力と悪魔の身体に沿わせてすべり落とす。そうして次に指先が侵し始めたのは、
菊花の孔。男の容である時とは異なり、単体では快楽を得にくいであろうそこを、再び秘所を口淫することで
意識を紛らわせ、跳ねる肢体をなだめて、ヒトはまた執拗に侵し続けた。
だがそれは、愛情に因るものと言うよりはむしろ、独占欲。他のものに先に侵略されることをどこか恐れての、
醜い行為、だったのかもしれないと。後に彼は幾度も、甘く苦い後悔と共に思った。
繰り返し繰り返し引いては返す漣に溺れ、くたりとくずおれる悪魔の上半身を起こしてかすめるように口付ける。
そのまま軽く抱き上げて、自分の身体を跨がせるように膝上に降ろすと、腕の中にその身体を抱きすくめて、今度は深く深く口付けてから、愛しい名前を呼んだ。
気だるげに、とろりと、垂れた蜂蜜のような金の瞳を開いたその様に。
かすれた声が自分の名を呼ぶその音に。
僅かに残る理性が食い千切られていくのを感じながら、最後にもう一度その心を確かめる。
もし、拒まれれば、この心臓は砕け散るのだと、思いながら。
恥ずかしげにコクリと肯いて、そのまま俯いてしまったその顔をもう一度上げさせて口付けると、ヒトはその普段よりも更に華奢で軽い身体を抱き上げて、その秘所を己の昂ぶりの上に合わせる。
何度も波に飲まれたその感じやすい場所に、他者の熱と滑りを感じて、悪魔がビクリと虞を示す。
「彼女」が我を失い、知らず本来の形態に戻ったときに、万一にもその身体が傷つくことの無いようにと、そう考えた故のこの体位はしかし、より甘さと羞恥と、そして快楽を煽るものとなった。
「大丈夫です。力を、抜いて」
そしてできれば、どうか、見ていて、ください。
――― 僕が、貴方のものになるところを。
それは真逆であろうと思われる言葉。だが、彼にとってはそれこそが真実。
その言葉の真摯さに後押しされ、悪魔は怯えながら、視界に入れる。
重力に従って落ちてゆく己の身体が、愛しい男を喰らっていく様を。