夜 第六夜 「鎖」



――― 断末魔のような、悲鳴が響く。

その甘い悲鳴が自らの咽喉から放たれていることを、耳から知覚しながら。
ああ、やはり、「私」は、この悪魔召喚師に、殺されるのだ、と悪魔は思う。
「私」は、それでも、いい。救われる。でも、残されるお前は、と悪魔は憂う。

この美しすぎる「ヒト」が、「人」として、どこか欠落しているのを、悪魔は知っていた。
その欠落ゆえに、こんな自分などに、執着するのであろうことも。

それでも。
あの、全てが濁っていく、あの紅い赤い壊れた、世界で。
この、美しいヒトを見なければ、己がとっくに破滅を選んでいたことも、悪魔は分かっていた。

「私」が世界の創造主だと言うのなら、この男は、その唯一神。
故に。
心は疑いようも無く、この男に帰属するけれども、この身体に絡みついた鎖は。
――― この紋様を刻んだ、あの御方は。けして、それを、許すまい。

どうすれば、この男の欠落を補ってやれるのか。
どうすれば、この男の本当の幸せを与えられるのか。
どうすれば、この男の、自分への執着を、消してやれる、のか。

分からないままに、ここまで来て。
分からないままに。
殺される、のか。



放つ光が、叫ぶ声が、その快楽のおぞましさを語る。
愛しいものが狂ったように悶え苦しむ様を平然と見ながら、男はその舌と腰と指の動きを止めない。

どれほどに高貴なモノでも、魔力を誇るモノでも、この快楽に落とし込めば、同じこと。
頃合を見て、堕ち行く言葉を聴きたくて、絡めた舌を解放した男は、微笑んでその言葉を待つ。

「……ライ、ドウ」
「はい」

けれど、開いたその赤い瞳は、彼が望んだどの欲望の色も映すことは無く。
ただ。驚いたように、その瞳孔を少し開いて。
動かすのも辛いであろうに、力の入らぬその手をライドウの頬に優しく押し当てて。

「泣かないで。ライドウ」

それだけを唇に残して、そのままカクリと気を失った。

その死んだようにしなだれる、手折られ捨てられ、踏みつけられた花のような悲しさに、
自らが泣いていたことにすら気づかなかった、愚かな男の心は悲鳴をあげる。


それは。何度も見た悪夢。
己が、この悪魔を殺してしまう夢。
愛しくて、愛しすぎて、他のものに奪われるぐらいならと、愛しつくして、殺してしまう、そんな。



――― それは、夢であったはずなのに。






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