夜 第拾弐夜 「瑕」



「ね、ゴウトさん」
『何だ?』
「ライドウって、いつから瑕があるんですか?」
『……気づいたか、……いつ』



ボルテクスで、こいつに命をやったとき。
……あれ?何か、おかしい、って思った。
いくら飢えていても他人の命のエネルギーなんて、結局は異物。
初めは拒否反応ぐらいあるだろうに。



「こう、何と言うか、元々空白があるところにポンと埋まったって感じで」
『……そうか』
「でも、確信したのは。今日、雷堂さんに、会ってから、です」
『……なるほど』



違う時空のドッペルゲンガー。
多少の差、こそあれ、本来は同じモノであるはず、なのに。
……違った。
あの、美しい瑕。最初はライドウと間違えて、いつ怪我したのかって、驚いたけど。

正直……見惚れた。あまりに、綺麗で。
怒られるかもしれないけど、似合ってて。
ああ、この瑕はあるべくしてあるんだ。これでこのヒトは完成してるんだって、思った。

こいつ、それを気づいてた?
傷ついてた?
その、違いに。

……多分、こいつには、心にあるんだ。瑕が。
見えないから、癒すこともできなくて、ずっと、今まで、そのままで。
ああ、ずっと、痛くて、辛かった、だろうに。



「自分では、気づいてない、んですよね?」
『我が会ったときには、既にああだった』
「……治せなかったんですか?」
『身体の瑕とは違う。心のそれは、難しい』



だから。お前は。俺の入れた、命を、勘違いして。……俺を、好きだ、なんて。
たまたま、それが、お前の心の瑕に、隙間に埋まったから。
――― 俺は。そのままでも、いいって、思ったのに。
あのまま、お前の中に命を残して、消滅してても、良かった、のに。




「私の命数、戻さないほうがいいですか?」
『そういうわけにもいくまい』
「……うん。結局はダミーですもんね」
『だみぃ?』
「ニセモノって、ことです」



そう。所詮、ニセモノだ。俺の存在は。そして、お前が俺に向ける執着も、きっと錯覚。
でなけりゃ、お前、みたいに、綺麗な、人間が、なんで、俺、みたいな、醜い、悪魔を。
……はやく、それに気付けば、いいのに。
俺が、これ以上、お前を愛してしまわない、うちに。
離したく、ない、なんて、バカなことを、思ってしまわない、うちに。



「でも、何となくだけど、同化?してないですか?」
『……うむ』
「無理に戻したら、壊れる、かな?」
『分からぬ。だが、多少は精神が乱れる、のは間違いないだろうな』



思ったより、俺がダメになるのが、早すぎた。
お前が俺に命を返してくれる前に。
瑕が見つかればって。
思って、たの、に。



「瑕を見つけて、認識して、治してから返してもらえばいい、かな」
『難しいが、それが最善だ……世話をかける』
「ううん。元はと言えば、私のせいだし。考えなしに、エネルギー入れちゃって」
『……それは違う。我の、せいだ』



お前が、自分で、自分の瑕に気づいて。
自分で、それを、埋めていかないと。
いつか、お前は、壊れる。

――― 今、みたいに。








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