夜 第拾参夜 「壊」



頭はガンガンと警鐘を鳴らし
心は引き裂かれて悲鳴をあげ
体はこの、地獄の悦楽を得て、嬌声をあげる。


「……う、あ、あぁあ……っ!」
この、行為は。
何て、気持ち、いい。


――― やめろ、と頭の中で声がする。
お前は何を。何をしているのだ、と。

でも、その声をかき消すように。


――― いやだ、と心の中で悲鳴があがる。
捕まえて、おかないと、また、失うのだ、と。

こうやって、身体を繋げて、そして縊ってしまえば、もうコレはどこにも行かない。
他者を見ることも、他者に口付けられることも、他者に心を寄せることも、他者に汚されることも。
もう、二度と、無い。

……安心してください。
すぐに、僕も後から行きますから。だから、この僕の手を、体を、肉を感じたまま、どうか。


――― ほら、「これ」を絞めれば、あそこも締まるのだ、と淫乱な体が喘ぐ。
気持ちいい、だろう?あの、ヒトの皮を被った悪魔どもも、嗤ってそう言っていた。

母様も、僕も、そうだったのだ。
互いを人質に取られて、抵抗もできぬまま。

……?。 では、なぜ「これ」は抵抗をしないのだろう。
何の人質も取っては居ないのに。「これ」は母様より僕よりずっと強い、のに?



やめろ、と言う僕。いやだ、と叫ぶ僕。こんなに気持ちいいのに、と喘ぐ僕。


……そして、多数決で、僕は、僕に、支配、される。





――― 貴方が、いけないのだ。
僕には、けして、秘密を教えてはくれぬ、貴方が。
優しく微笑むその表の顔の後ろにある、秘密を。


それは、全ての態で愛させて欲しいと願った理由の一つ。
その肢体のどこかに。貴方が隠し通す秘密が隠れていないかと、執拗に探した。
そのあらゆるところを自らの愛撫で侵しつくして。

でも、それでも。
甘い責め苦に叫び、許しを請い、痛みに耐え、快楽に溺れきっても、なお。
貴方はその秘密を隠し通す。

僕はこんなにも貴方に溺れているのに。
この細胞の全てが貴方を欲しいと叫ぶほど、何もかも貴方に囚われているのに。
どんなに深く触れても、貴方は僕にその秘密を見せてはくれない。
その本当の心を触れさせてはくれない。


――― ああ。
きっと、あの男は知っているのだ。
僕の知らない貴方の秘密を。

知っていた。
週に一度の逢瀬。
彼のマグネタイトの香りを漂わせる貴方を、どれだけ憎いと思ったか。
影が重なる貴方と、彼を見て、何度、引き裂いて、やりたいと。


そう。
貴方は僕からは一度も。
悪魔の糧(マグネタイト)を受け取ってはくれなかった。

あの時も、あのときも、あのトキも。

手を触れても、唇を重ねても、身体を重ねてすら、貴方は僕を拒絶し続けた。

ほら、今。この時で、すら。

……どう、して?
あの男のモノなら受け入れられる、のに
ゴウトには、貴方の、本当の、名を、教えて、いるのに
ねえ、どうして、僕では、駄目なの、ですか?


それほどに僕は貴方に信じてはもらえないのか。
それほどに僕は貴方を傷つけ続けたのか。
そうして、その秘密を、その裏側を、その闇を見せぬまま、貴方は行ってしまうのか。

また、僕は、失うのか。置いていかれるのか。独りきりで残されるのか。
……母様のときのように。


いや、だ。嫌だいやだイヤダ。
今、貴方は僕の腕の中にいるのに。
僕は貴方の中に居るのに。
なぜ、離れなくてはならないのか。

貴方が、そう、望むのか。
僕など、要らないと。

なら、どうして、そう言ってはくれない。
そう一言 言ってくれれば、僕はいつでも喜んで死ぬのに。
貴方の手に、かかって、死にたい、のに。





「あ、あぁああぁぁあ……っ!」
あまりの快感に咆哮する。
これまで一度たりとも、吐精するときに、声を出すことなど無かったものを。

ぬるり、と。力を失った己が「それ」から離れるのを感じ、切なくなる。
なぜ、「これ」と永遠に一つになっていることはできぬのだろう。と。

ゆっくりと熱が下がり。僕の体が沈黙する。
そして、ふと。気付いて。
手を、見る。

何かを、強く、握り締めて、いる、と。思うその先に、あるのは。




……ああ

もう

――― 叫び声も、出ない。





第拾四夜

第拾弐夜

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