夜 第拾四夜 「糾」



「……シュ、ラ?」

どれだけ呼んでも。
どんなに叫んでも。

閉じたままの瞳。
流れない吐息。
鼓動は、己のそれを返すのみで。


何回 揺さぶっても。
何度 息を吹き込んでも。

揺らされるままに動く腕。
人の態のままの身体はただ沈黙し。
地の底に落ちていきそうな黒い重みだけは雄弁で。


美しい、白い首に。
指の形を成す、青黒い、痣。
僕は、どれだけの間、「そう」していたのだ。


な、ぜ、抵抗も、しないで。
貴方の力なら、僕など、瞬時に、滅せたろうに。
きっと、壊れた僕は、それを望んでいた、のに。


……チガウ、ダロ?

ヤット オマエノ 本当ノ 「夢」 ガ 叶ッタナ



闇の中で、黒い自分の、白い歯が、嗤う。


ヨカッタナ。コレデ、モウ二度ト、コイツハ、他ノ何者ニモ 奪ワレナイゾ。

早ク 追イカケロ。今ナラ 追イツケル。モウ、刀デモ 銃デモ 仲魔デモ 構ワナイデハナイカ。

ドウセ、コイツハ、モウ二度ト。



――― こんなに醜い、汚れたお前を愛したりはしない。


ほら、思い出せ。お前は汚れているんだよ。

だから、母様も

お前を 置いて

逝ってしまったろう?






「あ、あぁ」

枕元にある退魔刀を手に取る。
スラリと、鞘を抜く時間すら、惜しい。
もし刀が拒んでも、血が抜け切れば、絶命できよう。

ああ、貴方の白い肌を、僕の醜い赤い血で覆うことをどうか、許して。
追いついたら、謝りますから。

……たとえ、追いついても。
貴方の憎悪の瞳を見た瞬間に、僕はまた独り、地獄に落ちるのだろうけれども。


目を閉じて、切っ先を 喉元に当てて、貫こうとした、とき。

――― クン、と抵抗を感じる。

まさか、と、開いた視界に入るのは、刀を掴む美しい手。
その輝く紋様が、刀身に緑色の光を反射させる。

狂いそうな鼓動を打つ心臓が、怒ったように睨む赤い瞳を、探すと。

やはり、怒ったような、けれど優しい声が。糾弾するように、僕の耳に響いた。



「逃げるな、ライドウ」





第拾五夜

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