力の抜けたライドウの両の手から、つい、と刀が抜き取られる。
傍に転がっていた鞘に、パチンとその刀身を収めた後、再び悪魔は人間に向き直った。
目を逸らすことを許さぬその赤い輝きに見竦められて。
ライドウは、これまでその瞳からは感じたことの無かった類の、恐怖に、襲われる。
――― 怖い。
今度こそ、嫌われた。
もう二度と愛してなど、もらえるはずも。
「……瑕、見つかった?」
え?
「お前の痛いところ、見つかった?」
普通に話しかける彼に、呆然として、でも、ゆっくりと、肯く。
――― 思い出した。
昔のこと。自分のこと。母様の、こと。
あまりに辛くて、悲しくて、痛くて、封印して。
でも、だからこそ。ずっと、治らなかった。瑕。
自分では、そのことすら気付かないで。そして、きっと不完全なままに、ここまで。
くす。
「まあ、結果的に荒療治になったけど、これで良かったのかもしれないな」
何事も無かったかのように微笑む彼が、信じられない。
荒療治、って。では、初めから、何もかも貴方は知っていて。……そんな。
「……にしても、あー苦しかった。人間体だったから、思わず仮死状態になっちゃったじゃん」
ホントお前、いーかげんにしろよ。俺、殺されかけたの、本日3回目だぞ!!
仏の顔も三度って言葉知ってる?……ああ、俺、悪魔か。
じゃあ、悪魔の顔も四度だぞ!コラ!!
凍っていた心が徐々に溶けて、何だか笑いたくなる。泣きたくなるほどに。
一体、どこにそんな優しい悪魔が居るというのか。
……ここに、居るのか。
「んーと。じゃあ、思い出したこと、言ったほうが楽なら、そうしろ。……聞いてやるから」
「そして認めて」
――― 己の弱さを。
「とっとと癒せ」
――― 己の瑕を。
そう言われて、なお、躊躇う、僕は、弱い。
「言えば、貴方は、きっと、僕を、嫌いに、なります」
声の震えが止められない。……何て、惰弱な。
……はあ?と、心の底から呆れたような声が返ってくる。
「あのね。本日3度も殺されかけて、まだ傍に居る相手に言う言葉が、それ?」
つーか、ボルテクスの回数も入れれば、5回目じゃん。追いかけっこの的殺も入れれば、うわ。
てめー、何度俺を殺せば気が済むの?ホント鬼畜。何で、こんな鬼畜がずっと好きなんだか。俺。
え?
「今、何て」
しまった、という顔をする悪魔にライドウは追求を止めない。
「もう、一度、言って、ください」
「あーっと。だからさ」
くそー今日は言葉は やらないつもりだったのに。こういうときだけさっさと復活しやがって。
ホント詐欺師だ、コイツ。と悪魔が頭を抱え。やがて。
じゃあ、全部まとめて言うぞ!
開き直ったように、ロマンチックの欠片も無く、悪魔が半ば自棄のように告白する。
「俺、お前のこと、ずっと好きだったから」
「お前の欠落が埋まるまでは、傍に居るから」
「できるだけ、早く、その瑕、治せ」
嬉しくて、でもその言葉の裏にある事実が哀しくて、卑怯だと思いつつも、人は確認を取る。
「もし、治らなければ、ずっと、傍に居てくれますか」
そう聞かれた悪魔は、しばらく沈黙をして、やがてポツリと言葉を返す。
「……なあ、ライドウ」
「はい」
「本当は、お前も、もう気付いてるんだろ?」
「……」
そして、人の卑怯さは、予想通り、痛みとなって己に返る。
「俺が、この世界では生きていけないってことを、さ」
痛いのはその言葉よりも。
諦めたような、貴方の。
――― 悲しい、笑顔。