夜 第拾六夜 「解」



気付いていた。

僕がボルテクスで、その気を上手く扱えずに、知らず弱っていったように。
貴方もまた、この地では。

よく考えれば当前の、こと。
管に入った仲魔ですら、使役時にはマグネタイトが必要な、この世界で。
常に外に出ている、貴方が。では、どうやって動くためのエネルギーを得ているのかと。
己の足元にも及ばぬ、そして己を崇拝する悪魔を殺すことなどけして、できない、貴方が。

「何度か、お前のを、くれようと、してくれた、だろ。マグネタイト」

でも、受け取ってはもらえなかった。
あの時も、あの時も、あの時も。……さっき、も。
どんなに弱っていても、気を失っていても、眠っていても、身体を繋げていてさえ。
貴方は、絶対に僕からはソレを受け取ろうとはしなかった。かたくなに。

雷堂のそれは、受け取って、いた、のに。
貴方から、彼の残り香が漂うたびに。
……僕が、どれほど。

「雷堂さんに、協力してもらってたんだけどさ」
やっぱ、それも気付いてた?

あっさりと白状する彼に戸惑う。……協力?

「一度、アカラナ回廊で、マグネタイト不足で死にかけたことがあってさ」
え?
「そのときに、歯止めが利くなら問題ないから、自分ので補えって、言ってくれて」
「歯止め?」
聞かれて、困ったように彼が笑う。

「さっき、言っただろ。……止まらなくなるって。相手がお前だと、さ」
照れた笑顔に、醜い僕の心の塊が氷解されていく。 それが、理由? そんな、理由で。

「俺は、燃費が悪いからな」

ほら、トウテツがさ。武勇伝みたいに、お前からマグネタイト吸い尽くした話をしてて。
三日間起き上がれなかったって、聞いたから。
混沌王が歯止め無く喰ったら、考えるだけでも怖いだろ。いくらお前でも自殺行為だ。だから。

――― お前からはマグネタイトはもらえないよ。

「雷堂さんも、お前のこと、好きだからさ」
心配してたぞ。おかげで協力してもらえたんだけど。

ああ、どこまでも罪作りな。
彼は、貴方のことを、心配して、いたの、だろうに。
混沌王、じゃなくて、鈍感王に改名したらどうですか。

「え?また、泣いてるの、何で」
どこか焦ったような声になる貴方が愛しい。愛しすぎて、苦しい。

「ほら、鳴海さんだって、タエさんだって、もちろんゴウトさんだって、お前の周りはいい人ばっかり
じゃないか。皆、お前のことが好きで、心配してるって分かってる、だろ?」

そんなお前から命吸うわけにいくかよ。
……っ。 ああもう! 何で、余計に泣くんだよ!!

そう困ったように言って、
ふわりと、優しく頭を撫でるその手に、また、涙が出る。
そして、その撫で方は相変わらず、絶妙で。……困る。

暫くして、貴方がポツリと言う。

「そう、だな。泣くな、って、言ったけど。撤回するよ」

泣いていい。
きっと、そのほうが楽になれる、よな。
なあ。……置いて行かれるのも辛いけどさ、置いて行くほうだって、辛いんだよ。ライドウ。

大丈夫。お前はきっと、その瑕を癒せる。
ああ、ほら、こういうのなら、俺でも分かる。
もう、大分、治ってきたじゃないか。塞がってきたのが、分かるよ。
治癒力、高いな。お前。

……あ。
しまった。俺が撫でてたら、違うところも回復しちゃったか。ホント治癒力高すぎ。

……いいよ。皿まで喰ってやるから。
じゃあ、今度こそきちんと最後まで責任持って、「殺して」くれよ。
もう、焦らすのは勘弁な。時間も無いだろ?

――― 朝までっていう約束、だろ。



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