夜 第拾七夜 「染」



――― 「愛しています」と言う雫を、何度、この乾いた身体に落とされただろう。

耳に、だけじゃなく。
その指先から唇から、身体全体に沁みこまされて。浸みこまされて。染み、こまされて。
泣きそうに、なる。……もう、泣けも、しないのに。

ごめん、な。ライドウ。
後、少しだけ。そのお前の気持ち、もらってて、いいかな。
俺が居なくなる前には、絶対に言うから。それが錯覚だって、こと。ちゃんと言うから。

きっと朝までに、俺の命は全部、俺に戻ってくる。
きっとお前も分かっている。だから、怖かったんだろ。

ホントは、俺も、怖かったのかもしれない。
だから、こんなことになるまで、接触を避け続けたんだ。
お互いに、不器用な、鈍感な振りをして。

だって、俺の命が戻って、お前の瑕が治れば。

……もう俺がここにいる理由は、何も無くなると分かっていたから。






――― 貴方の優しさに、こんなにも心を染められて、満たされて、いるのに。僕は。まだ。

好きだ、と言ってくれた。
あんなに酷い目に遭わせてしまったのに、それでも、笑って。好きだと。大切だと。守りたいと。

でも、あの言葉だけは、くれなかった。

あの赤い紅い部屋で。
血の味の口付けと共に、貴方が僕に呪いをかけたあの言葉。

「愛してるよ、アヤ」
お前だけだ
、と、貴方はあの時、言っていた。

おそらく、ヒトだった頃の貴方が、世界の何よりも愛していた、そのヒトに捧げた愛の言葉。

……なんて欲深いんだろう。
こんなに癒してもらっているのに、それでも愚かな僕の心は叫ぶ。

同情など、いらない。
優しさなど、いらない。

僕だけを、愛していると、言って、ください。

……嘘でも、いいです、から。



◇◆◇


「あ、あぁっ……!ラ、イドウ……っ」

約束どおり、焦らすことなく追い詰める。
ええ、僕ももうそんな余裕など、欠片も。

ああ、そして、悪魔の貴方の肢体は何て。
「シュ、ラ」
耳朶に口を寄せて呼ぶと、貴方はヒクリと震えて。それすら愛しくて。

「あ、あぁ。な……に?」
「本当に綺麗、です。貴方、は。感じると、薔薇色に染まって。暁の空のように」

ビクリと。震える。首を振るその動きは……感じて、ではなく。……これは、怯えて?

「……それ、言わ、ないで」

え?
悲しそうな瞳。泣きそうな声。
傷つけた?どうして?


その僕の戸惑いを消そうとしたのか。
彼はこの夜初めて、自分から僕の唇に貪るように喰らい付いてきた。




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