もったいないな。
せっかく、なのに。滅多に見られないのに。
そう思って、首を傾げてソレを覗き込むシュラの手には大きめの植木鉢。
数日前に、鳴海とライドウが、依頼主から料金と共に、礼だと言って渡されたという、その。
鳴海さんもライドウも知らないみたいだったけど。これ。確か。
一晩だけしか咲かない花、だったよね。
カメラが趣味の大オジが、被写体まで自分で作りたいとかって園芸や盆栽まで凝りだして。
ある日、知り合いに株分けしてもらったと言って、持ってきた、その植物。
パッと見た目はどうと言うこと、無かったのに、夜になると。
俺まだ小さかったけど、今でも覚えてる。ぞくり、としたんだ。あまりに綺麗で。
手の中にあるその植物の、どこかグロテスクにも見える紡錘状の塊。
それが開いたときは、目の前でほのかな光が生まれたようにさえ、思った。
ホントもったいない。
鳴海さんは仕方ないけど、ゴウトさんとライドウは間に合うかなって、思ってたのに。
振り仰いで、シュラは天空を見る。
今宵の支配者は、ちょうど南中にならんとするVollmond。
――― ああ。魔界の門が開く。俺を呼ぶ声が聞こえる。
分かってるよ。もう、帰らないと、だね。うん。……分かってる。
きっと、これが、この場所から見る最後の満月。
そっか。だから、お前はここに来たのかな。
……俺を納得させるために、今、咲くのかな。
覚えてるよ。ロマンチストだった大オジが教えてくれた、お前の花言葉。
あの時の、哀しそうな大オジの瞳の色が、幼い俺には分からなかったけれど。
――― 今なら、分かる。