夜の王 3



――― 思い出した。

夜にしか咲かない花だと、どこか懐かしそうにその植物を、見て。
月の下で見ると、鳥肌が立つほど、綺麗だよ。一緒に見れたらいいな、と笑って、いた。
早く帰って来れたらいいのに、と。


キィと開いた扉の向こうに。
求める相手を見出した途端にカツと駆け出したライドウを見送って。
黒い猫はその緑の瞳を細めて、目の前でまたガチャリと扉が閉まる音を聞き。
やがて、溜息をひとつ吐いて、ゆっくりと階段を降りていった。


あれ、ライドウ。お帰り。遅かったねと何でもないように笑って言う貴方は。何て、憎らしい。
……僕の、気も、知らないで。
そして、僕が貴方を抱き締めるのを邪魔するかのような、その鉢も。何て。

やむなく、背中から抱き締めると、え? ラ、ライドウ?と焦る貴方の声が響く。
ただいま、と、耳たぶを噛みながら言ってやると、びくりと起こった震えが。
ほんの、少しだけ僕の溜飲を下げた。

貴方と触れ合うようになって、初めての満月。
他の悪魔と同じように、貴方もこの月に作用される、のだろうか。
いつもよりも、更に、敏感で、感じやすい。そんな、気がして、僕の熱が上がる。


///……ま。まあ、とにかく間に合って良かったと貴方が言うので、何にですか、と問い返す。
ほら、この子、もうすぐ開くよ。一緒に見たかったんだ。これが最後だし。


……最後?と微かに震える僕の声に気付いたのか。貴方が言葉を接ぐ。
もう、一つしか蕾が残ってないから。最後。ホント良かった。お前と見たかったんだ。


僕と?……どうして?
咲いたら分かるだろうけど、お前に似てるよ。この花。とても綺麗で。怖いほど。あと花言葉も。


花言葉?どんな?
たしか「強い意志」、「艶やかな美人」。……あと。


あと?
あとは……忘れた。

ここまではっきりと、嘘だと分かる嘘をつく貴方も珍しい。……調べれば分かる、こと、だからか。

クジャクサボテン?でしたか?この植物の名前。
うん。でも、別名のほうがお前に似合う。

別名?


――― 月下、美人。



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