夜の王 6


――― なあ、カオル。この花は一晩だけしか、咲かないんだぞ。

「あ、……っん」
声を抑えようとする、貴方が、愛しくて、虐めたく、なる。



――― そーなんだぁ。めずらしいんだね。いつ さくの?大オジ。

「ライ、ドウ」
仮の名を呼ばれただけでも、ヒクリと感じる己の愚かしさは今更のこと。



――― かなり蕾が膨らんでいるからな。今晩ぐらい、かな。

「だめ、だよ」
嘘、吐き。貴方の身体は、そうは、言って、いない。



――― ねーねー。じゃあ、さくまで、ずっとおきてていい?

「こ、んな、ところ、で」
でも。こんな所だから、貴方は余計に感じて、いるのでしょう?



――― 明日は日曜だしな。……いいだろう。あいつらには内緒だぞ。

「あ。だ、ダメ、だ……って……っ」
もう、嘘は吐かないで。本当のことを、言って、ください。



――― やった!ありがと、大オジ!!

「う……ん……っ」
その声が辛いのなら、僕が、全て、呑み込んであげます、から。




既に、最愛の悪魔の弱点を知り尽くしたヒトには、彼をその気にさせるのはたやすい。
ただ。あがる声を耐えようと、かみ締める唇が、可哀想で。
時に己の舌で、時に己の指で。口内を侵して、その音を消してやる。

優しく甘く残酷な腕の中で、思考を奪われながら。
それでも悪魔は初めの目的を、忘れない。





ライ、ドウ、花、が、咲く。
見て、やって。




乞われて、その、己に似ると、愛しいモノが言う花を、見て。









黒衣を纏う悪魔召喚師は、息を呑む。
白く。ただ白く、ゆっくりと開いていくその花は。また、ひたすらに妖艶でもあり。
――― その汚れない白ゆえに。

「……僕に、似て、いますか?」

微かに震える声の故は、自らにすら分からない。
貴方には、僕は、これほどに、白く、見えているのか。
それは、嬉しくもあり。また、哀しくも。



似て、るよ。
ほ、ら。いい、匂いも、する。お前と、一緒。



確かに。
甘く濃く漂うその独特の香りは。
その花に。この月に。この闇に、とても、似合って。

貴方の香りと交じり合って、肉の欲を、余計に、そそられる。


「あ……っ。や、ぁ。はや……いっ」

どくりと脈を打つ、その動きに気付いて。
どこか怯えた声で、どこか待ち望む声で貴方が喘ぐ。

「気持ち、いい、ですか」
「……っ。聞、くな……っ」


そう。聞かずとも、貴方の色が、うねりが、縋る腕が、如実に、その感覚を語る。

「う、あ。あぁ……んっ」

……はぁ。と。
荒い息遣いで、軽い波をやり過ごして。貴方が言葉をつむぐ。



「思い、出した」
「何を」

もうひとつ
もう、ひとつ?

花言葉
どんな?

カイラク
え?

『快楽』だよ、お前の……花言葉


あどけなく、首を傾げて、僕の瞳を覗き込み。
に、と笑ったその、貌は何て、悪魔的な。

ぞくり、とする人間にトドメを刺すように。
最強最悪の悪魔はその腕をするりと、愛する男の首に巻きつけて。
その白い耳朶に囁く。

「ねぇ。ライ、ドウ」

――― もっと。

「……っ。あぁ。シュラ……ッ!」

満月に狂わされた悪魔の。
滅多と聞けぬ、ねだる声に煽られて、篭もる熱を叩きつけると。
その魔界の花は、微かな甘い声と香りを宙に撒き散らして。

――― 咲いた。





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