――― なあ、カオル。この花は一晩だけしか、咲かないんだぞ。
「あ、……っん」
声を抑えようとする、貴方が、愛しくて、虐めたく、なる。
――― そーなんだぁ。めずらしいんだね。いつ さくの?大オジ。
「ライ、ドウ」
仮の名を呼ばれただけでも、ヒクリと感じる己の愚かしさは今更のこと。
――― かなり蕾が膨らんでいるからな。今晩ぐらい、かな。
「だめ、だよ」
嘘、吐き。貴方の身体は、そうは、言って、いない。
――― ねーねー。じゃあ、さくまで、ずっとおきてていい?
「こ、んな、ところ、で」
でも。こんな所だから、貴方は余計に感じて、いるのでしょう?
――― 明日は日曜だしな。……いいだろう。あいつらには内緒だぞ。
「あ。だ、ダメ、だ……って……っ」
もう、嘘は吐かないで。本当のことを、言って、ください。
――― やった!ありがと、大オジ!!
「う……ん……っ」
その声が辛いのなら、僕が、全て、呑み込んであげます、から。
既に、最愛の悪魔の弱点を知り尽くしたヒトには、彼をその気にさせるのはたやすい。
ただ。あがる声を耐えようと、かみ締める唇が、可哀想で。
時に己の舌で、時に己の指で。口内を侵して、その音を消してやる。
優しく甘く残酷な腕の中で、思考を奪われながら。
それでも悪魔は初めの目的を、忘れない。
ライ、ドウ、花、が、咲く。
見て、やって。
乞われて、その、己に似ると、愛しいモノが言う花を、見て。
黒衣を纏う悪魔召喚師は、息を呑む。
白く。ただ白く、ゆっくりと開いていくその花は。また、ひたすらに妖艶でもあり。
――― その汚れない白ゆえに。
「……僕に、似て、いますか?」
微かに震える声の故は、自らにすら分からない。
貴方には、僕は、これほどに、白く、見えているのか。
それは、嬉しくもあり。また、哀しくも。
似て、るよ。
ほ、ら。いい、匂いも、する。お前と、一緒。
確かに。
甘く濃く漂うその独特の香りは。
その花に。この月に。この闇に、とても、似合って。
貴方の香りと交じり合って、肉の欲を、余計に、そそられる。
「あ……っ。や、ぁ。はや……いっ」
どくりと脈を打つ、その動きに気付いて。
どこか怯えた声で、どこか待ち望む声で貴方が喘ぐ。
「気持ち、いい、ですか」
「……っ。聞、くな……っ」
そう。聞かずとも、貴方の色が、うねりが、縋る腕が、如実に、その感覚を語る。
「う、あ。あぁ……んっ」
……はぁ。と。
荒い息遣いで、軽い波をやり過ごして。貴方が言葉をつむぐ。
「思い、出した」
「何を」
もうひとつ
もう、ひとつ?
花言葉
どんな?
カイラク
え?
『快楽』だよ、お前の……花言葉
あどけなく、首を傾げて、僕の瞳を覗き込み。
に、と笑ったその、貌は何て、悪魔的な。
ぞくり、とする人間にトドメを刺すように。
最強最悪の悪魔はその腕をするりと、愛する男の首に巻きつけて。
その白い耳朶に囁く。
「ねぇ。ライ、ドウ」
――― もっと。
「……っ。あぁ。シュラ……ッ!」
満月に狂わされた悪魔の。
滅多と聞けぬ、ねだる声に煽られて、篭もる熱を叩きつけると。
その魔界の花は、微かな甘い声と香りを宙に撒き散らして。
――― 咲いた。