逢魔ガ時 2



築土町、丑込め返り橋

聞き込みのノルマを終えたライドウは、コツ、と歩みを止めた。

『どうした、ライドウ?』
「……子供が」

見ると、橋のたもとに金色の髪の小さな男の子が立っていた。
どこか既視感のあるその姿に、微かな不安を覚えつつも。
このような時間、このような所に幼い子が、と。

「どうした。迷子か」
問いかけられても、黙ったまま見つめるその碧い瞳に、日本語が通じないのかと思ったその時。

黒い黒い憎しみが、その碧い瞳から放たれる。
その悪意は瞬時に実体化し、ライドウに襲い掛かった。

咄嗟に、ゴウトを庇い、受身を取る、が。
(……く。肋骨を傷めた、か)
油断した、とは言え、防御能力のある外套をも、あっさりと貫通した凄まじい衝撃波。
しかも、周囲の大気は濁り、澱んでいる。いつの間にか異界化までしていたか。

何という力だ。いったいこの子供は、と、態勢を整える暇も与えず。

「へえ。これぐらいじゃコワれないんだ」
でも、ツギはどうかなぁ?

どこか、拙い、幼い言い回しで、楽しげに呟かれた言葉に、戦慄する。

そして、再び、凄まじい魔力が生じる気配。

――― ()られるか、と、思う速さと
「……ライドウ……ッ!」
聞いたことが無いほどに焦った彼の声が、耳を掠める速さは、同じ。

……気付いたときには彼の背中が、その子供とライドウ達との間にあった。


先ほどの攻撃は、と思う疑問は。

『ぬ!』
「……っ!シュラ!!」
彼の身体から滴り落ちる赤いそれが回答する。

マサカドゥスを付けている混沌王をたやすく傷つけるほどの力を、持つモノ。
――― それは。きっと。彼を悪魔に堕とした。

「おはよう。ボウ。起きたんだ」
「……ふぅん。ソイツが、そんなにダイジなの」
気に、入らないね。

噛み合わぬ会話は、碧い瞳と金色の瞳の視線を複雑に交わらせた。




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