逢魔ガ時 4



シュラの懇願が届かぬまま、ライドウは動かぬ身体で見る。

愛する悪魔が、目に見えぬ力に切り刻まれていく悪夢を。

無数のカマイタチの刃の中に放り込まれたかのように、その身体は見る見るうちに傷で覆われ、
紋様の光は赤い膜を被る。頭部だけは攻撃を加えないのは、その苦悶の表情を愉しむためか。

「! ……」

やがて生理的な声を抑えるためか、口元を覆ったシュラの指の間からドロリと大量の血が流れ
落ちるのを見て、ライドウ達は理解する。……その攻撃は身体の内部にも及んでいるのだと。

そしてシュラの紋様が赤い危険色を光らせ始めた頃に、ようやく、時間は、来た。

「……ふ、ん」
と、鼻を鳴らし。
どこか無表情にディアラハンと唱えた子供は、ゆっくりとシュラの元へ歩む。
地面にカクリと膝をついた彼は既に無傷だ。
だが、その足元に散らばる赤い固体と液体が、あの悪夢が現実であったことを鮮やかに示す。

「……キに、いらないけど。ね」
約束は約束だから。仕方ないね。

忌々しげに呟かれたその言葉に微かに安堵の想いを見せたシュラの表情は、しかし。
「だから、でておいで、ア・シュラ」

続く言葉に硬直する。

「っ!ボウ!約束が」

「うん。ボクは(・・・)、みのがしてあげるよ」
――― 約束どおり。

「でも、カレは(・・・)、どうかなあ?」
――― 僕なんかより、ずっと、そのヒトのこと、憎んでるはずだよね。彼。


「テイコウしないで、カオル」
「や、めて……ボウ!」

ガクガクと震える自らを拘束するように抱きしめるシュラに、優しげに子供は微笑む。

「ほら、はやく、でておいで、ア・シュラ。カオルがくるしんでるよ」
「……う、うあぁっ!」

あの(・・)攻撃に、呻き声一つあげなかったシュラが苦悶の声をあげ、両手で顔を覆い。

――― 叫んだ。

「逃げろ!ライドウ!!」

……くす。
「いいや。逃がさない(・・・・・)よ」


……その相反する二つの言葉を発したのは、同じ口唇。




そして、またライドウ達は理解する。

――― 本当の悪夢は、これから始まるのだと。



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3人目登場。