逢魔ガ時 8



「母さんがオレの能力を封印していったからさ。暫く様子を見てたんだろうな。でも、そのうち。
彼の成長のために、能力を確かめたい、とか適当な言い訳つけて、父親から引き離して。
声が出ないように拘束して、カオルを監禁しやがったんだよ。あいつら。
ま、怖かったんだろうな。カオルの能力も。……カオルの母親をいびり殺した、ことも」


――― 「世の中には、知らなくていいこともあるぜ。悪魔召喚師」
いつかの魔王の言葉がライドウの脳裏をよぎる。

「そんな弱くて汚い奴らの下っ端がさ、次にどんな行動とるかぐらい、 お前にだって、分かるだろ」

『……聞くなライドウ。耳を、心を塞げ』
常に無いほどに緊張した声のお目付け役が、低く強く唸る。

「後は、ずっと、だ。何週間だったか、何ヶ月だったか、それすら、分からない」

閉心術程度はライドウもできる。バッドステータス攻撃も凌げるのはその故だ。だが。

「俺を初めとする他人格が山ほどできあがるまで。ずっと、そのまま。奴らの玩具だ」

聞くなと、後悔するぞと、何かが忠告するのに。

「ある日、その時の悲鳴を聞きたいとか思った変態が、愚かにも声の拘束を外してくれて」

恋焦がれる月の、その裏側を知りたいという欲は、止められず。

「それが。たまたま、人格が、オレの番でね」

――― ライドウはその悪魔の声を受け入れる。



簡単だったよ。一言「死ね」って言ったら、全員、自分で首を絞めて、死にやがった。
オレは記憶担当だから、カオルの真名も当然覚えていたからね。力も使えるさ。
アイツら、途中から油断して、平気で自分の名前、話してやがったし。

後は、それまで何も知らずに居た、一族の上が全部無かったことにしてくれたよ。
何しろ、年端も行かない子供を監禁して玩具にしてたんだからな。おまけに、その子供に一言命じられただけで、仮にも言霊使いの一員があっさり死んだなんて、体裁悪くてどこにも言えないさ。
それにそれほどの力のある俺を、無駄に消すこともできなくてね。とことん情けない連中さ。

……世間話のように、残酷な過去を淡々と語る彼が、驚愕に震えるライドウをちろりと、見て。
クスリ、と嗤う。

「まー、だから、オレ的にはさ」
そう言って、ア・シュラは金髪の子供の傍に跪き、再びその手に口付ける。

「受胎を起こしてくれた ぼっちゃまには心の底から感謝してるわけだ。
あのまま高校卒業してたら、カオルはヤツラの種馬にされる予定だったからね」
「種、馬?」
意味の取りきれぬ、おぞましい言葉をライドウは繰り返す。

「繁殖用のオス馬扱いってことだよ。
その力を頼みとして繁栄してきた一族なら、誰でも、考えそうなこと、だろ?
お前んとこは、葛葉一族、だっけ?蛇の道は蛇っつーか。ありがちなことでしょ。ね、ゴウトさん」

声も無く黒猫は唸る。それは肯定の意。

「ああ、あと、悪魔になる時に、一度カラダ全部、きれいに再生してもらえたし」
オレ、カオルが自分のカラダの傷を見るたびに、何もかも全部諦めたように笑う顔が嫌、でさ。

悲しげに、痛ましそうに眉を寄せる顔は、シュラそのもの。

「あの顔を見なくて済んだだけでも、ぼっちゃまには、感謝、してる」
ま、この格好で、あの瑕だらけの肉体じゃね。見栄え悪いよな、って思ってもらえたのかな?

――― 傷の無い、人間なんて居ないよ。ライドウ。

「それに、この紋様のお陰で、そういう類(・・・・・)の変な攻撃されることも無かったし」
Danke、ぼっちゃま。と彼は金髪の子供にニコリと笑う。

「よく。わかってるね。さすがに、ア・シュラ」

ア・シュラの笑顔に、その子供もまた嬉しげに言葉を返す。

僕の所有印を持った君を、他の悪魔がおかしな攻撃など、できるはずがないじゃないか。
――― その緑の光すら、僕を表すモノなのに。

「ああ、でも。ボクも、よくおぼえているよ」
究極の悪魔候補を探していたあの時に、君という素晴らしい原石を見つけたときの。あの。

「ココロが、フルえるようなヨロコびはね」



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※紋様の光=所有印説の根拠というか元ネタですが。ノーベル賞関連でご存知の方も
多いかと思いますが、発光する生物に含まれる緑色蛍光タンパク質(GFP)という
モノがありまして。語源上のこととは思いますが、それに関連する語がどちらも
「あの御方」の名前が含まれるのです。詳しくはこちらが面白いかと。

ちなみにウチの人修羅女性体の発光色設定は↑の資料の図1の一番左。