「オレがっ!」
攻撃をしかけながら、ア・シュラは叫ぶ。
「ずっと、ずっとオレが。オレだけがカオルを守ってきたんだよっ!
お前が、人のお前が、カオルを悪魔だって決め付けて斬りかかってきやがったときも。
その銃の弾を何度も何度も撃ち込んできたときも。悲鳴をあげるカオルを守ったのはオレだ!」
……なのに。どうして、お前なんかに、何もかも。
キン!と深く、打ちかかる攻撃を、寸でのところで、ライドウはかわす。
と、それを見切っていたように回し蹴りが入り、それを刀の鞘で止める。
「お前さえ、居なければ!」
――― 怖い、と言っていた。
アイアンクロウが鼻先をかすめ、抜いた鞘で防御する。
その鞘を弾き飛ばし、悪魔が憎悪の気を腕に集める。
「お前さえ、居なければ。カオルが、真の悪魔になることも、なかったのに!」
――― 痛いのは、もう嫌、だと。
あれは、あの悲鳴は。
マグマ・アクシスの炎を、外套で避け、
連続して畳み掛ける連撃を刀の峰で受ける。
「自分一人、痛い気で居た?一般人には、修行したお前の辛さなんか分からないだろうって?」
――― ああ、シュラ。
貴方が僕の瑕に気付いてくれたのは、貴方がもっと深い瑕を持っていたからだと。
どうして、僕は。今まで。
気付きも、しないで。ただ、甘えて。
一方的な、それでも、技の極めたモノ同士の攻防を、金髪の子供は目を細めて見る。
そして、予想通り、ア・シュラの凄まじい攻撃に、ライドウはやがて追い詰められ。
ガキリと、ライドウの耳元の壁にその悪魔の爪が突き刺さり、赤い瞳が目の前で美しく輝く。
――― こんなときですら、貴方は僕の目を離させないほどに、キレイなのですね。
貴方になら、殺されても、本望だ。
けれど。
このまま、こんな形で僕が死ねば、きっとまた、貴方は苦しむ。
すい、と、退魔刀の切っ先の向きを変えるライドウにア・シュラは眉を寄せる。
「何をする気?」
「貴方に、僕は、殺させません」
「どう、いう、こと?」
くすりと笑って、ライドウは目の前の愛しいモノの形をした悪魔に口付ける。
「な」
驚いて、一歩退くア・シュラにライドウは微笑む。
「僕は、自分で望んで死ぬのですよ。だから貴方は」
もう、これ以上、苦しまなくて、いい、です。
言うなり自らを貫こうとしたソレは。しかし。
「……なぜ、止めるのです」
緑色の光を放つ、悪魔の手で、止められる。
でも、返された言葉は。
「逃げるな、って。言っただろ。ライドウ」
あの時と同じ、優しい響きで。
え、と。思わず、顔を上げたライドウに向けられるのは。
いつもの、困ったような優しい、愛しい「彼」の笑顔。