「お願い、泣かないで。ライドウ」
優しい、声。気遣うように肩に触れる、しなやかな指先。
「ね、お願い。……心、落ち着かせて」
その、優しすぎる音が、感触が、僕の壊れた心を、ギリギリと締め上げる。
……落ち着け、と。言うのですか。
それは、僕の、記憶を奪えないから、ですか?
ね、え、どう、して、そんなに冷静で、居られるの、ですか?
僕が貴方を忘れてしまうことなど、貴方には何の痛痒にも、ならない、のですか?
僕は、こんなにも、苦しい、のに?……貴方は、平気、なのですね。
きっと、貴方が、僕を、愛して、いないから、平気、なの、でしょうね。
……ああ、いっそ。貴方を憎んで、しまいたい。
憎んで、しまえれば。
――― そうだ。憎めば、いい。
……憎めば、楽に、なれる?
――― 無論だ。探偵。
甘美な誘いを囁く、どこかで、聞いた、声。
なぜ、そんな言葉を受け入れてしまったのか、自分でも、分からない。
だが。
「……あ、なた、こそ……っ!」
「ライドウ?」
だが、気付けば、僕は何かを叫んでいた。
――― けして、口にしてはならなかった、言葉を。
◇◆◇
「貴方こそ……っ、僕を、愛してなど、いない!」
「ライ、ド……」
……愛していれば、記憶など奪わないはずだ。
「貴方は、貴方が傷つくのが怖いだけだ!……だから、逃げて、逃げ続けて……」
「……」
……愛していれば、僕の心が真実であることを分かってくれるはずだ。
「貴方が愛しているのは自分だけだ!自分を守るために、誰の愛情も信じないで!」
「「……やめて、デビルサマナー」」
『……よせ、ライドウ』
……僕が、悪いんじゃない、貴方が。
「都合が悪くなれば、記憶を奪って、人の心を、もてあそ、んで」
「「ソレ以上、言ウナ!悪魔召喚師」」
『ライドウ、やめろ!』
……僕を受け入れてくれない、貴方が悪いのだ。
「貴方の、そんな、偽物の愛情など、僕は、いらない!」
もう、いらない!!
僕を、信じてくれない、貴方など、いらない!!!
「「……ならば。もはや、けしてお前には、我等が主を渡すまい。
主が、何を、望まれようとも」」
『ライドウ!いいかげんにしろ!!』
自分が、何を言ってるのか、分かっているのか!!、と。
心の底から焦ったゴウトの声の響きに
は、と。
――― 我に、帰った。