逢魔ガ時 23



ぽたり、と。声を上げて地面が泣き。

すぐ目の前にある乾いた土に、痕を残す。

――― そしてまた、僕の汗は、頬を伝う。……ゆっくりと。



恐ろしいほどの、沈黙。

ドクンドクンドクン、と心臓が不快なほどの騒音を立て。

胸が、首が、締め付けられたように、呼吸が上手く、できない。


つい、と。触れていた指先が、離れて、いくのに、気付いても。
もう、僕には、それに縋りつくことは許されない。



……今、僕は、何を(・・)、言った?


お前は、僕など、愛していない、と?
お前が、愛しているのは、お前だけだと?
お前の愛情など。……オマエナド、モウイラナイ、と?

――― 僕のために、血みどろになって、身も心もズタズタに引き裂かれたこの哀しい悪魔に?



嘘吐きの笑顔の裏で、貴方の心が声の無い悲鳴を上げていることを、誰よりも知っているのに。
自分の、自分の痛みを紛らわせるために、それだけのために、僕は、貴方を。
……あの、時と、同じ、ように。何度も弾を撃ち込み、刃を突き入れて。

――― 攻撃したのだ。愚かにも。容赦、なく。……愛していると、言ったその口で。



(お前のそれは錯覚、だよ)



あ、ああ。
違う違う違う。貴方を、こんなふうに、傷つけたかった、わけじゃ、ない。

「ちが、」
言葉が止まる。

……何を言えばいい。何と言えばいい。

怖い。
僕が何を言っても、また、貴方を傷つけてしまいそうで。

何もかもが、怖い。
僕が何をしても、それは、貴方を地獄へと突き落とすための罠となるようで。

そして。何よりも。

――― ただ、黙ったまま、傍に居る、貴方が、怖い。

どうか、僕を、怒らないで。嫌わないで。……見捨てないで。

……いや。いいや、違う。
怒ってくれて、いい、嫌っていい、僕を八つ裂きにしてくれても、いい。
だから、どうか、それ以上、自分を自分で。否定、しないで。壊さないで。


ガンガンと響く耳鳴りに紛れて。
ふ、と、短い溜息が聞こえる。何の感情も見えないそれに戦慄した瞬間に。

「「ああ、主様!!」」
『シュラ、おぬし……!』

驚愕したような、ゴウトの声。

それに、押されて、
怖くて動こうとしない身体を、動かして、
やっと、貴方を、……貴方の顔を、視界に入れて。



「!」



息が、止まった。
























ポタリ、と地面に落ちる、透明な雫は。

――― なみ、だ?

ほろほろと、零れる、それは、悪魔の器に囚われた貴方が、もう、流せない、はずの。

(泣い、て……?)

どこも見ていない、何も映していない、その紅い瞳から、落つるそれは、紅玉を転がしたような。

その、哀しい美しさに目を奪われ、声を、思考を失った、その数瞬に。


「……うん」
貴方が音を、力の篭もる音を奏ではじめる。


そう(・・)、だな。ライドウ」
待って。と言いたいのに、声が、出ない。


お前の言うとおり(・・・・・・・・)だ」
……待ってください。


「俺は」
違、う。さっきの、僕の、言葉は、違う!


「お前を、愛してなんか」
お願い。もう一度、僕の言葉を聞いて、くだ、


「いない」


――― ザクリ、と、聞こえない音が響いた。



切られた?

……僕の心が?
いや、それは。きっと、貴方の。






「バカだね、俺」
ああ、泣かないで!


「こんな、醜い俺が」
僕を憎んでくれていい、許さなくてもいい。


「誰かを」
だから。どうか、


「愛せるはずなんて」
"それ"だけは、捨てて、しまわ、ないで。


「無かった、よね」





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後書き反転

どこかで、彼らも、叫んでいます。