ぽたり、と。声を上げて地面が泣き。
すぐ目の前にある乾いた土に、痕を残す。
――― そしてまた、僕の汗は、頬を伝う。……ゆっくりと。
恐ろしいほどの、沈黙。
ドクンドクンドクン、と心臓が不快なほどの騒音を立て。
胸が、首が、締め付けられたように、呼吸が上手く、できない。
つい、と。触れていた指先が、離れて、いくのに、気付いても。
もう、僕には、それに縋りつくことは許されない。
……今、僕は、何を、言った?
お前は、僕など、愛していない、と?
お前が、愛しているのは、お前だけだと?
お前の愛情など。……オマエナド、モウイラナイ、と?
――― 僕のために、血みどろになって、身も心もズタズタに引き裂かれたこの哀しい悪魔に?
嘘吐きの笑顔の裏で、貴方の心が声の無い悲鳴を上げていることを、誰よりも知っているのに。
自分の、自分の痛みを紛らわせるために、それだけのために、僕は、貴方を。
……あの、時と、同じ、ように。何度も弾を撃ち込み、刃を突き入れて。
――― 攻撃したのだ。愚かにも。容赦、なく。……愛していると、言ったその口で。
(お前のそれは錯覚、だよ)
あ、ああ。
違う違う違う。貴方を、こんなふうに、傷つけたかった、わけじゃ、ない。
「ちが、」
言葉が止まる。
……何を言えばいい。何と言えばいい。
怖い。
僕が何を言っても、また、貴方を傷つけてしまいそうで。
何もかもが、怖い。
僕が何をしても、それは、貴方を地獄へと突き落とすための罠となるようで。
そして。何よりも。
――― ただ、黙ったまま、傍に居る、貴方が、怖い。
どうか、僕を、怒らないで。嫌わないで。……見捨てないで。
……いや。いいや、違う。
怒ってくれて、いい、嫌っていい、僕を八つ裂きにしてくれても、いい。
だから、どうか、それ以上、自分を自分で。否定、しないで。壊さないで。
ガンガンと響く耳鳴りに紛れて。
ふ、と、短い溜息が聞こえる。何の感情も見えないそれに戦慄した瞬間に。
「「ああ、主様!!」」
『シュラ、おぬし……!』
驚愕したような、ゴウトの声。
それに、押されて、
怖くて動こうとしない身体を、動かして、
やっと、貴方を、……貴方の顔を、視界に入れて。
「!」
息が、止まった。
ポタリ、と地面に落ちる、透明な雫は。
――― なみ、だ?
ほろほろと、零れる、それは、悪魔の器に囚われた貴方が、もう、流せない、はずの。
(泣い、て……?)
どこも見ていない、何も映していない、その紅い瞳から、落つるそれは、紅玉を転がしたような。
その、哀しい美しさに目を奪われ、声を、思考を失った、その数瞬に。
「……うん」
貴方が音を、力の篭もる音を奏ではじめる。
「そう、だな。ライドウ」
待って。と言いたいのに、声が、出ない。
「お前の言うとおりだ」
……待ってください。
「俺は」
違、う。さっきの、僕の、言葉は、違う!
「お前を、愛してなんか」
お願い。もう一度、僕の言葉を聞いて、くだ、
「いない」
――― ザクリ、と、聞こえない音が響いた。
切られた?
……僕の心が?
いや、それは。きっと、貴方の。
「バカだね、俺」
ああ、泣かないで!
「こんな、醜い俺が」
僕を憎んでくれていい、許さなくてもいい。
「誰かを」
だから。どうか、
「愛せるはずなんて」
"それ"だけは、捨てて、しまわ、ないで。
「無かった、よね」