逢魔ガ時 25



――― やっぱり。

やっぱり、って思ったんだ。……お前も、そうなんだ、って。

ああ、そんな辛い顔を、しなくて、いい。……大丈夫、だよ。俺、慣れてるから。

受胎後の世界で。何度も、教えて、もらった、から。

俺みたいな穢れた生き物が、人に受け入れてもらえるはずなんか、無いってこと。

何度も。

……受胎前の世界、でも。



だから。

悪いのは、あいつらじゃない。
悪いのは、お前じゃ、ない。

悪いのは、いつも、俺だ。
俺が、こんなだから、誰も、俺を、愛さないんだ。
俺が、身も心も穢れた人殺し、だから。壊れた、空っぽの生き物だから。


大丈夫。分かってるから。大、丈夫。


……でも、おかしいな。慣れてるはず、なのに。


痛い。

胸が、痛い。

酷く、痛いんだ。ライドウ。……もう、俺に、痛む心なんて、無いはずなのに。


ああ、でも。
早く、こんな痛み、捨てないと。

早く、笑わないと。
お前は悪くないって、言ってやらないと。

また、お前が、苦しむ。


お前は、間違ってない。ライドウ。
お前は、正しいことを、言った、だけだ。

こんな醜い悪魔の愛情なんて、誰も、信じるはずが無い。欲しがるわけが、無いんだ。

だから、ライドウ。頼むから。



◇◆◇


「そんな顔、するな」

そう、言って。
涙の止まった貴方が、笑う。

微笑んだ、頬に。
最後の一滴が幻のように伝って、落ちた後は。
もう、いつもどおりの、でも、もう完全に違う生き物になってしまった、貴方がそこに居た。


「気に、するな。……お前、優しいからさ。さっきの、気にしてる、だろ?」
優しい、優しい、笑顔に、

「お前は間違ってない。大丈夫、俺、慣れている、から。こーゆーの」
僕は、絶望する。


もう、彼が、本当の意味で、僕に、触れることは、無い、のだ。
この身体にも、心にも、もう二度と。

もう、僕は。彼の中で。
彼を利用し傷つけ壊し続けてきた、数多の醜い人間の一員だと、分類、されたのだ。


「……ライ、ドウ」

卑怯だと、思う。
でも、止まらない、のだ。
哀しくて悲しくて(かな)しくて、止まらないのだ。

貴方から永遠にそれを奪った僕が、流すそれを、貴方は悲しそうに、見る。

卑怯だ。僕は、どこまでも汚くて、卑怯だ。

本当に、かなしいのは、貴方なのに。
本当に、泣きたいのは、貴方なのに。

なぜ、今更、気付かないといけない。思い出さないといけない。
僕が貴方に触れる資格などまるで無かった、ことに。

もっと、早く気付いていれば、もっと、早く貴方の手を離していれば。
貴方を、ここまで、傷つけることも、無かった、のに。




――― いつも、僕は、後から、気付く。


そして、いつも、貴方の痛みに、間に、合わない。





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後書き反転

彼を、傷つけたくなくて。
人であることを、諦めた、ようです。