逢魔ガ時 29



「……ん?」
『どうした。……まだ夜は明けていないぞ、ライドウ』
「……ゴウト」

いや、何か……夢を見ていた気が、して。
そう、言って、起き上がる後継を、黒猫は気遣わしげに見る。闇に紛れて。悟られぬように。

『悪い夢でも見たのか?童のようだな』
く、と笑いかける先達に、ライドウは、違う、と返す。

「いい夢を、見ていたように思う」

そう言って、微かに、嬉しげに微笑む顔に、猫はゾクリと寒気を覚える。
かの言霊使いの凄まじい支配力を目の当たりとして。

『……そう、か。ならば』

――― 早く、もう一度眠るが、いい。その夢に再び、追いつけるように。

(あの、強大に過ぎる力を得た、哀しい悪魔が作った、その、優しい、夢は。
今も、きっと、お前を待って、くれて、いる)


ああ、と肯いて、再び布団にもぐったライドウは、ふと、空間が微妙に空いた床を、見やる。

「シ……彼は、明後日ぐらいに帰るの、だったか」
『ああ。……戦況の思わしくないところに助っ人に行く、とか言っていたな』
「彼なら、心配することは、無い、のだろうが」
早く、帰ってくれば、いい、のに。

寂しげにそう言って、ライドウは再び瞳を閉じた。








――― 幸せな夢に、戻るために。





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