「 『居なくなる前に』また来る。」
その言の通り、その狂にして凶なる男は突然に現れた。シュラの名を受け取りに。
もちろん、約束どおり“自分で育てたメギドラオン持ちピクシー”を連れて。
「へえ。今度のピクシーは本当に自分で育てたんだ」
「ハッ!金だけ取られて、条件が違う、やりなおせたぁ。ひでぇ悪魔だ。一度で懲りたぜ」
その。ひでぇ悪魔の部分でチラリと。先ほどから絶対零度の視線で自分を睨みつけている黒衣の少年を見やり。相変わらずだなライドウ、とキョウジは嗤う。
(相変わらず刃物のように、キレそうな気を出しやがる……いや、少し、違う、か)
前は力は強くとも、何かが。何かのバランスが取れずに不安定で。だからこそ、付け入る隙も見えたってぇのに、それが、今は。
(ものすごく安定してやがる。少なくとも、“力”は)
「チッ。里のヤツ等の“十四代目様”信奉がますます酷くなるな、こりゃ」
ただでさえ、陰陽系の俺様は召喚力じゃあ、神道系のコイツに劣るってぇのに。
(くそ。キョウジがライドウに取って代わる日は、遠いな)
「でも。その冷静な判断力と。名への自負と、拘りがあるなら、大丈夫じゃない?」
「え?」
あっさりと内心を汲んだのか。
キョウジも変わったね、とクスリと笑む悪魔の表情にドクリと心音が跳ねる。
(なんてぇ、貌をしやがる)
「……おめぇも、変わったな」
「そう?どこが?」
(どこが、って)
「ますます、にん…」
人間離れしやがったと、言いかけて。何故かそれは言ってはならぬ気がして。
「にん?」
「にん…人形みてぇに綺麗になりやがった」
「……へ?」
何とも言えない雰囲気のまま突入した、ほんの少しの沈黙の後。
プチと誰かさんの青筋が切れる音と、チキと何かの鯉口を切る音が、
だしゃーと相変わらずの、謎の決まり文句と共に、鳴海探偵社に響き渡った。