キョウジ 3



「はいはい。もう二人とも、屋内で遊ばない!」

犬と猿。ハブとマングース。いや、狂犬と悪狐とでも言おうか。
二匹の臨戦態勢まっしぐらの困ったサンを軽くいなしたシュラは。
そんなことより、ちゃんとピクシーを紹介してよ、とキョウジを睨む。

「おい。まだ疑ってんのかぁ?」
「違うよ。ちゃんと会っておきたいだけ」
だって、キョウジの大切な仲魔だろ、と何の毒も無く返されて、う、と答えに詰まる。

し、仕方ねぇな!そんなに見たいなら、と。
ツンデレの極みのような台詞をブツブツモゴモゴとこぼしながら。取り出すのは銀の管。
そして、溢れるのはマグネタイトの緑。

その孤を描く軌跡が夢のように消えた後には。
小さな妖精が、戸惑ったようにフワリとその場に浮かんでいた。



◇◆◇



「こんにちは。キョウジの妖精さん」
(てっ、てめぇ、その呼び方はやめろおぉおおぉおぉお!)と内心で絶叫するキョウジを置き去りに。

「こ、こここっ、こんにちは! シュラ様!」と、真っ赤な顔で慌てて挨拶を返す“キョウジの妖精さん”がシュラを見る視線は、雲の上の御方を見るソレそのものだ。

「どう?キョウジはちゃんと大事にしてくれてる?」
「はっ、はい!ちゃんと怪我をしたら治してくれるし!消耗したらマグネタイトもくれます!!」

(……それは当たり前に過ぎることではないのか)
と非常に冷たい視線がライドウから注がれているが、以前が以前だったのでそこは評価しておくべきところなのだろう。

「君は、キョウジが好き?」
「え?……えっ、とぉ」

((これがライドウであったなら。ほぼどの仲魔も表現は違えども『大好き!』と返ってくるものを。
まだまだその点は足元にも及ばぬのう。キョウジ))
そう。ソファの隅でフフンと鼻を鳴らすゴウトは、相も変わらず親バカモードである。

「……おい、ピクシー。どうしてそこで即答しねぇんだよ!」
「だってぇ。キョウジを相手に、好き、なんて、さぁ」

「じゃあ、俺のことは、どう?……好き?」
「はい!大好きです!!ずっとファンだったんです!!ほら!私達の大先輩ピクシーからの情報も自然に入ってくるし!!もうもうずっとお会いしたくて今日の日が楽しみで!」

「おい待て。この野郎」
浮かれて延々と続きそうなファントークを止めるのは、地を這うような男の声だ。

「何よ、キョウジ。シュラ様との会話の邪魔しないでよ」
「おめぇ、俺様との扱いと、違いがありすぎねぇか?」
「そりゃ、キョウジはキョウジなんだから、当たり前じゃない!」
「な。大体、お前、主人にサマをつけずに他人にはサマつけてる時点でおかしぃだろうが!」
「キョウジにサマなんかつけても、サマにならないもーん」

ぷ。
くっ。
くくっ。

「あははははは!ほ、ホントに、仲良しなんだ!キョウジ!!」
「くっ。これは珍しいものを見せていただきましたね」
『変われば変わるもの。どうやらキョウジは一代で終わらぬ名となるな』

そんな。爆笑の後に落とされた初代ライドウからのその一言は。
葛葉一族の厄介者と呼ばわれ続けた傾奇者の表情を、固く引き締めさせた。



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