凪 6



『やはり、か。……無茶をする』
「あはは。ばれちゃってたか。ゴウトさん、慧眼だからな」
右手の怪我から全身に熱が回っていたシュラは屋上に横たわり、回復を待つ。


心配そうに見守る妖精たちは、シュラの邪魔にならないよう二人でこっそり会話中だ。

「じゃあ、やっぱりあれがシュラ様?あの(・・)シュラ様?」
「そうよ〜。こっちでも噂になってるんだ〜」

「って、魔族で知らないものが居たら、お目にかかりたいよ〜。
でもなんでこんなところに来てるの?確か、もうすぐ戦いが始まるって」

「……うん。もう、すぐ、なんだ」
「……そっか。じゃあ、今は最後のお休み?」

「うん。……だから。今日は凪ちゃんに会えて、嬉しかったと思う」
「凪に?」

「うん。悪魔を友達だって心から言ってくれる人に、最後に会えて」
「……うん。そうだね」

「凪ちゃん。大切にしてあげてね」
「もちろん!アンタもシュラ様、大事にするのよ〜」


やがて、ゴウトの耳がピンと立ち、シュラに話しかける。
『シュラ、二人が上がって来るが、立てるか』
「うん。ありがと、ゴウトさん」
そして、シュラが立ち上がった直後にライドウと凪が屋上にやってきた。

「もう話は終わったの?ゆっくりすれば良かったのに」と笑うシュラに
「お名残惜しいのですが、そろそろ帰らねばならない時間なので」と凪が返す。

そうか〜、と寂しそうにうつむくシュラは、何かを思いついたように顔を上げると、
「そうだ!凪さん、良かったら、これ、もらってくれないかな?」とポケットから光るものを取り出した。

「シュラ!それは」
「リング?」

シュラが凪の手のひらに落としたのは青い宝石のついた小さな指輪。

「俺の母親の形見なんだ」
「そ、そんな大切なもの、もらうわけには」
驚く凪に、にこり、とシュラの必殺寂しげ笑顔が直撃する。

「俺さ、ちょっと遠いところに出かけなくちゃならなくて。でも無くしたら大変だから、
しばらく、預かっててくれないかな?凪さんなら安心だし」
大体、指輪なんて、それが似合う可愛い女の子が着けてないとダメだしね?
と笑うシュラに言い返せる口達者はここには誰一人として居なかった。

しかし、それでも躊躇する凪に
「じゃあ、お返しに一つだけ俺のお願い聞いてくれる?」とシュラは言い。
凪の耳に口を寄せ、一言二言囁くと、きょとんとした凪が少しだけ赤くなり。
それから、打って変わった真面目な顔でシュラをまじまじと見つめて、しっかりと、頷く。
それを見て、シュラがまた、ありがとう、と柔らかく笑った。


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