独り神 2


ゆうるり、と紅い口唇が弧を描く。

ありがたい。

鬱憤を晴らす場を、わざわざ、設けてくれるとは。


罠のつもりで仕掛けたのであろう、件の幹部に感謝しながら。

ライドウは高位悪魔の群れに向かって、その凄絶な笑顔を向けた。




――― 演武の儀

一族への忠義と、護国の意を示すためのその儀式は、通例は比較的レベルの低い悪魔を対象
とするもの。見るものが見ればどのように弱いもの相手であっても、"技"の本質は見える故に。
また万が一、観覧している者たちへの、被害が及ぶことを防ぐ目的もあり。

それが。

『何故に、これほどの』
演武場に入った途端、ぬ。とゴウトが唸るほどの高位悪魔を多数配置してある、その様は。
ここが「修験闘座」であるかと眼を疑うほどの。

十四代目はアマテラス様に守護されし御方。この程度の相手ではむしろ申し訳ない、と。
ぬけぬけと厭らしい笑顔でおべっかをつかうその幹部に、哀れみすら感じながら。

里に戻って初めて愉しげな気を巡らしたライドウを見て、ゴウトもまた心中で、笑んだ。


「おお」
「これは」
「さすがは、神に認められし、者」

――― 突き詰めた武は、舞に通ずるという。

その言葉を体現するような、剣技も、銃撃も、身のこなしも。
一分の無駄も、隙も無いその動きは。
演武、というよりは、むしろ演舞。

「これだけの悪魔を相手に」
「うむ。噂に違わぬ」
「いや、むしろ噂以上の」

汗ひとつかくことなく、その白磁の面に笑みさえ浮かべながら、淡々と儀式をこなすライドウを、
罠に嵌めたつもりが、逆にその評価を更に引き上げることとなった件の幹部は、ギリギリと歯を
噛み締めて、睨みつける。

やがて、儀式は終幕へと向かい。

「では、最後の演武である。仲魔を一体、召喚してある。共闘して、悪魔を倒せ」

響く指示に、こくりと肯くライドウの元に、仲魔のジョロウグモがボワリと現れる。
常のように指示を与えようとしたライドウは、だが、その仲魔の突然の己への攻撃に眼を見開く。

「……く。プリンパか?」
『な、どういうことだ!』

咄嗟に避けたものの、少なからぬ"混乱"魔法を身に受けたライドウの前に
トン、と、本来戦うべき相手である悪魔が現れる。だが、それは。

「あれ?ライドウ?……ゴウトさんも?」
「!」
『何だと!』

現れたのは、象牙の肌に黒と緑の紋様を持つ、最強最悪のソレ。

「久しぶり、ライドウ。元気だった?」
「……シュ、ラ?」

呆然と名を呼ぶ悪魔召喚師に、ニコリと笑いながら、その悪魔は親しげに近寄ってくる。

「びっくりした。いきなり呼ばれたと思ったら、お前が居て」
「……」
「何ここ?悪魔と戦ってるの?俺も一緒に戦ってやろうか?」

そう言って、会いたかった、とライドウの首に回るしなやかな手の先には。
刃のような、光る、長い爪。

『ライドウ!罠だ!!眼を覚ませ!!それは!!!』

ゴウトの言葉と共に。

グサリ、と。
鋭い何かが刺さる音と。

ポタリ、と。
紅い何かが滴る音が。

演武場に響いた。


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