キュルリと、天井のリールが、天上の音を響かせる。
何かに怯える来訪者を歓迎し、その震える心臓を打ち抜くかのように。
・・・入ってすぐは、視界の開けぬ、どこか靄がかかったような暗い部屋。
思わずと、古の海神と同じ名を持つ器具を見上げた男は、下界へ続く鎖を視線で追い、辿る。
――― っ!!
(私の宝石が自分で自分を砕かないように)
また、キュルと、音が鳴る。
その楽を奏でる先。
狂気に落ち、鎖に拘束され、それでもなお、その身をよじらせる、主を、クー・フーリンは見る。
(壊れやすく遷ろいやすいものほど、美しいとは)
象牙に黒玉。常の緑柱石ではなく、今は紅玉を嵌め込んで、蟲惑的に光るそれは、確かに。
悪魔の象嵌細工。魔界の支配者が愛玩する、最高の芸術品。
――― ああ・・・!
いかばかりに、お辛いことか、と、きりきりと痛む心の奥底で
故の分からぬ悦びが、ひそりと微笑むのを自覚しつつ、彼は彼を痛ましげに、見る。
(揺れるほどに、美しい光を放つのだから、始末に終えない)
その心の綾を嗤うように、また、キュと、音を奏でるその楽器は、美しすぎる。
頭上に揃えた両手首
――― を起点に。
ゆるやかな美しい曲線を描く腕
――― が、肩へ続く。
そして続く、しなやかな上半身の弧に、見惚れながら
この、美しい容は。
どこかで、見たような。
・・・マグマ・アクシスの、と、思いあたり。
長く。長く。その、炎を操る主の美しさに見惚れ続けた下僕は、ゾクリと身を震わせる。
(・・・私に、何をせよと)
(なに、簡単なことだ。・・・君が“分銅”になれば、いい)
(・・・どちらの?)
やがて。
その、暗い、閉じられた部屋の中で。
闇に灯る篝火に、身を焦がされる羽虫のごとく、彼は彼に手を、伸ばし。
・・・既に、かの技の熱に、身も心も絡め取られ、燃やし尽くされていた男を、嘲笑うように。
また、何かが、キュルと鳴いた。