Balance 4




(・・・よほど、アレ以外に触られたくないのだろうね。
女性体になれば多少は“まし”なのに、かたくなに容を変えないのだよ)


贅沢な鳥篭のように美しいカーブを描く天井を持つ、丸い、部屋。
その中央の突端に、飾りのように取り付けられたレールから、囚われの猛禽へと続くのは
透き通るように光る光子(フォトン)の鎖(チェーン)

どれだけ暴れようとも、縛する肌にけして瑕を残さぬ、純粋な光子のみでできた鎖。
・・・では耳に届いた金属音は、幻聴かと思うクー・フーリンの耳に届くのは、やはりその音で。
白い幻魔は、かの地獄の王の趣味の“良さ”をまざまざと思い知らされる。

その地獄の鎖から、いや他の“何か”から逃れようと身をよじるその鳥が乗せられているのは。
これも、フォトンの枷を複数付属させた、柔らかな寝台、のような。

――― ああ
その枷に両脚を左右に開いて固定された、赤く明滅する狂気の獣の何と、蟲惑的な、ことか。

床にも壁にも鎖にも。自分自身にすら己を害させることができないのは。
囚われの気高い獣にとって、どれほどに残酷であるのかを、理解しながらも。

・・・この、淫靡にすぎる状況にあまりに矛盾する感想と思いながらも。

貴方は、どれだけあの魔王に愛されていることかと、白い幻魔は呻く。
自分以外の何者にも傷ついて欲しくないという願いが、冷たく凝固したような、おぞましい鳥篭。

(攻撃力は男性体の方が高いのもあるし。まあ、だから仕方なく拘束してあるのだけれど。
・・・君には少し、刺激が強いかな?)

ふ、と、残酷に笑った地獄の王の声が耳に、響き。

口枷だけでなく、目隠しまで、と、クー・フーリンは囚われの主を痛々しげに見る。
黒いその布にはルシファーの魔力を籠めてあるのか、赤く何かの印が浮き上がって見えた。



◇◆◇



主の肌を傷つけかねない、己の装備を殺ぎ落とし。
背中から、そっと抱きすくめるとその愛しい体はひくりと、脅える。
結果、また、キュルと鎖の楽を響かせる楽器は、その儚い抵抗が相手の熱を煽るとは知らない。

遠慮深げに、うなじに落とされる口付けも。
壊れ物に触れるかのように、首筋を鎖骨を胸を腰を撫でる指先も、とても繊細で、優しい。
けれど。

「・・・んっ」

頑なな悪魔の体は拒む。アレ以外は嫌だと。お前は違うと。

(ああ。・・・主、様)
申し訳ありません、と謝罪する心の裏側で募る、おぞましいほどの嫉妬に見てみぬ振りをし。
腕の中の、主の、甘く苦い抗いを無視して。
美しい背中の紋様をなぞるように動く、愚かな下僕の舌は赤い明滅をたどって、下肢へ進む。
首筋を降り、肩甲骨をなぞり、腰を辿って、尾骨を数度愛しんで。そのまま垂直に下へ。

やがて。

「んっ!ぅんっ!!」

後孔にたどりつき、ねちゃ、と音を立てる舌の先は、周辺を弄んだ後に、獲物の内へと浅く潜る。
膝立ちのまま縛された悪魔には、更に前の根を愛そうと動く男の手を防ぐ術は無い。

「んんっ、・・・んっ!!」

感じないはずは無い。
快を得る器官をこれほどに甘く執拗に愛撫されて。・・・雄の性を、その形態を持つモノなら。

「ん、んっ!」

けれど。
その愛しい肌は、体は、頑なに、残酷に、他者を、拒む。
その事実に、きり、と白い幻魔は哀しげに悔しげに、口を軋ませ。やがて。

(意識が無くとも、彼は強情だからね。欠片も傷つけたくないというなら、使うといい)

傍に置いてあった、広い口の深い銀の杯。ルシファーが渡した背徳の器。
その内を満たして、とろりと揺れる琥珀色の液体へと、躊躇いながら指を浸した。



◇◆◇



・・・ぴちゃりと鳴るのは水の音。くちゃりと啼くのは肉の声。

粘膜から、作用する薬剤、なのか。
とろりとした、どこか甘い香りを持つその液を、主人の後孔に塗りこめていくに従い。

「・・・っ!んっ、んんっ」
声は、甘くなる。

・・・アレしか受け入れられぬと嘆く精神を、他者を受け入れたいと喘ぐ肉体が侵食していく。

最愛の方にこのようなと、軋む理性の裏で、ぞろりと起き上がるのはどちらへの嗜虐の悦びか。
主の心を主の肉がゆっくりと裏切っていく、その様を見続け見届けるこの、地獄の責め苦。

ああ。我が主の心と体のバランスを崩し、残酷に揺らして光を放たせるこの行為は、何と。
――― 甘い。

しかもそれが、自分の指で舌で、体で。髪で、声で、心で為されている、とは。と。
己の心もまた、黒と白に揺らされていることを自覚しながら、リンはルイの声を思い出す。

(それも、揺れるほどに、美しい光を放つのだから、始末に終えない)

「・・・っ」

ああ、どうか。もっと。
私の腕の中で、もっと、美しく、揺れて、ください。

中を愛しむ指を、左手に変え。
右手指をクチャリと媚薬に漬けた下僕は、主の腰に腕を巻きつけ、その中心を戸惑い無く、握る。

「ぅんっ!!」

勃ち上がりかけていたソレは、突然の湿った刺激にひくりと脈を返すかのように思え。
薬の滑りがもたらす感覚を知りながら、元から先へとゆっくりと摺りあげた後に、暫し、手を離し。
荒げた息が収まった頃を見計らって、ようやくと硬くなったその先端を濡れた指でくるりとなぞる。

「んっ・・・んぅっ・・・」

――― と、きゅう、と甘く蠢く、主人の“中”。 
上がる音は既にとろけるように甘い。

その音を、肉が示す顕著な反応を確かめて。
残酷に過ぎる過去から、一刻も早く解放してさしあげたいと
そう、願っていた忠実な下僕が、主の口枷を外す、と、聞こえてきたのは。

「んっ、ん・・・ぁっ・・・あっ、・・・っ、ぃ、ゃっ」

叛意の意を持ちつつも、陥落と歓楽を示す、承諾の音色の、主の囀り。





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フォトンはラスト・バイブルから拝借。(あれは鎧とかでしたが)
・・・次は更に下降します。このカプならどう転んでもオッケーな方以外はどうか離脱を。