変異後の仲魔が、新しい性質に従い、己への態度を変えるのはまま、あること、とはいえ。
どこか“友達”のように思っていた彼が取る、明らかに距離を置いた臣下の礼に、
主人の灰色の瞳は少し悲しげに、歪む。・・・仕方の無いこととは、理解しながら。
「クー・フーリン?・・・・そのまま、呼ぶと長いね?短くして、いい?」
「はい、好きにお呼びください」
――― 貴方が付けられた名、そのものが、私を体現するそれとなるでしょう。我が主。
「ええっと。クーってのが、名前?何て意味なの?」
「・・・いえ。名前、という訳では・・・クーの意味は“犬”です」
「犬?」
「はい」
◇◆◇
少しの沈黙の後、無言のまま、背から絡みつかせていた腕を解く“犬”に、主人はホッとする。
・・・これで、これ以上、コイツを損なわなくて済むと、狂った思考の内にも安心する悪魔を裏切って。
――― え?
白い幻魔は主の、頭上で戒められた指に口付ける。少年の正面から。
ぴちゃ、と鳴る音は忠誠の証。
正確に、主人の命に従いながら、己の欲にも忠実な彼は、少年の指を一本ずつ、口にふくみ。
舐める。
「・・・ッ、」
爪と指の狭間も、指と指の間の水かきも、丁寧に飽かずに愛しげに。
手の平をくすぐり、鎖に拘束された手首を、気遣うように口付けて。
ゆっくりと、犬の舌は下腕を降り、肘の裏側をなぞり。
「・・・っ、く、ぅっ」
お呼びになりましたかと、答えかける己に自嘲しながら、ビクリと反応を示した脇で、舌を止め。
恐らくは感じやすい場所なのだろうと、判断した犬は、何度もそこを、舐める。
己の主人の、言いつけに従って。
「・・・ぁ・・・っ」
主人の、何かに耐えるその声は甘く、ガシャと響く鎖の音すら、壊れた己の耳には、既に快く。
更に美しい音楽を作るために、犬の舌は耳朶をくすぐり、うなじを通り、胸へと到る。
「ゃ・・・や・・・ぁ・・・っ」
既に存在を示していた胸の先端は、舌を絡められて更に凝り固まり、主の息と声をはずませ。
右と左で、奏でられる音楽が異なることを楽しみながらも、愚かな下僕は主の真の願いを探す。
「おいや、でしょうか?」
「・・・」
はぁ、と喘ぐ息の間に、返る言葉は無い。
「・・・ここ、までに、しておきましょうか?」
それほどに、お辛いのでしたら。
半分は忠誠、半分は欲動から出た言葉に返るのは。
「・・・るな」
「え?」
「やめ、るな! いぬ!!」
――― 望みどおりの、命令。
仰せのとおりに、と、美しく微笑んで、再び彼は主へと、舌を伸ばす。
ビクビクと震える肢体の中心は、既に痛々しくそそり立ち、犬の舌を待っていた。