くちゅと湿った音と共に、悲鳴のように上がる、甘い少年の声。
数度、舐め上げられ、深く口内に含められ、キツめに吸われただけで、達した主の放つ液を。
下僕は、コクと音を立てて、己の内へと、取り込む。
一滴もそれを逃さぬよう、執拗に主から口を離さずに、飲み干して。
やがて、大事そうにゆっくりと口から抜き出したそれに口付けて、満足そうに息を吐く犬を。
主は放心したように、見る。・・・赤い瞳で。
「い、ぬ?」
「はい」
「・・・クー?」
「はい」
「・・・・・・リン?」
「はい」
ああ、やっと、私を見つけてくださったと、喜ぶ心の裏側で、何かが軋む音が、する。
・・・回復していただくためとはいえ、己が為した、この無礼を、この方は許してくださるだろうか。
スッと身を放し、俯いてしまった犬を見やり。やがて己の体を、ガシャと鳴る鎖を、順に確かめて。
囚われの主は得心したように呟く。
「・・・あぁ。・・・そっか、俺」
壊れたんだね? ルイの力、もらいすぎて。
――― 黒に、傾いて。
「・・・」
沈黙で返す下僕は、手を伸ばし、そっと、主を戒める枷をはずそうと、動く。が。
「・・・そのままで、いい、リン」
え?
「まだ、俺の中、ぐらついてる。・・・多分、少しの間、正気に戻った、だけ・・・だ、から」
だから、もう、いい。
「主・・・様?」
戸惑う犬に与えられるのは、最悪の命令。
――― もう、違う主人を見つけろ。リン。
「・・・っ」
「命令だ・・・最期の」
息が止まる。言葉が出ない。そんな言葉を聞くために、貴方の傍に居たのでは、無いのに。
「それ以上、お前の白い力を俺に、吸わせなくて、いい」
いくらお前が、光の神の息子だからって、この、黒い力が主たる魔界で、自殺行為だ。
だから、もう。
――― このまま、で、いい。
「・・・で、すが」
「もう、俺に、触れるな」
お前が、汚れる。
「・・・主、お聞きくだ」
「俺は、お前まで、失いたく、ない」
「・・・主、」
「何度も言わすな。命令、だ。・・・出て行け。リン」
「・・・ま、せん」
「リン?」
「その、ご命令は、聞けません!」
なぜ、貴方は、気付いてくださらない!
ガクリと、己の天秤が傾くのを、下僕は知る。
それは、怒りなのか悲しみなのかも分からぬ、黒い感情。
この行為が、忠誠だけによるものだと信じて、疑いもしない、残酷な主への。
「・・・え? ・・・リ・・・」
脇にある媚薬を含み、噛み付くように口付けてきた下僕に、主の目は見開かれる。
やがて、コク、と飲み干す音を確かめて、犬の舌は主の口内を執拗に、侵した。