「ん・・・っ、リ・・・」
「心より、お慕い、申し上げて、おります。我が、君」
何度も、何度も角度を変えて落とされる、深い口付けの合間に、告げられる愛の言の葉。
「ずっと、貴方を、愛しておりました」
「!・・・リ・・・?・・・っん・・・っ」
幼い、セタンタの頃より。
違う。その、ずっと、前。初めて、貴方の仲魔となった、弱い一体の悪魔であった、ころから。
・・・いや。おそらくは、私たちの概念が生まれる、その遥か以前から我々は貴方を愛していた。
――― なのに。貴方は。
「・・・違う主人を、見つけろと、おっしゃるか、」
貴方を見捨てて、違うモノに尾を振って、のうのうと、生きろと。
ああ、いっそ、俺の為に死ねと、言ってくださるほうが、どれだけ我等にとって・・・。
口付けと共に深くなる愛撫に、主人が鎖の音を忙しなく奏でる音は、もう犬の耳には届かない。
「なぜ、分かって、くださら、ない・・・っ」
貴方を失って、生きるぐらいなら、貴方に喰われて、この身を失うほうが、余程幸せなのだと。
――― ああ、あの、黒く赤いアマラの水底。・・・貴方が望まれて真の悪魔になった後に。
(でも、俺が悪魔の王になるなら、どうして皆、俺に襲い掛かってくるんだ?)と。
腑に落ちぬように、無邪気に首を捻っていた貴方の傍で、我等はその答えを言わなかった。
あれらは、皆、貴方の血となり、肉となることを、願っていたのだと。
贄となり、貴方をより高みに昇らせるために、彼らは貴方に、襲い掛かっていたのだと。
皆。到底、自分達には敵う相手では無いと、すぐに自分は滅せられると覚悟しながらも。それでも。
貴方と戦い、貴方の手で殺されることを、皆が望んだ。
・・・貴方が愛しかった、から。貴方のために、闘い、貴方のために死んだ。
でも。
そうと知れば、優しい貴方は彼らと戦うことをためらっただろう。だから誰も。その事実は。
――― ああ、ならば。私も。
私も貴方の敵となろう。貴方に襲い掛かり、貴方を害そうとするモノとなろう。
そうすれば。
貴方は私を喰らって生き永らえることに、さほどの苦しみは感じられまい。
「・・・あっ、ゃ・・・っ、リ・・・」
残る媚薬を指に絡め、主の中心に触れる。
濃密な愛撫と口付けで、硬度を少し取り戻しつつあるそれを、とろりと撫で上げると、上がるのは。
・・・耐え切れぬような甘い声。
思わず、くん、と、己の下肢に押し付けられた主のしなやかな腰を右腕で絡めとり。
左手で、互いの中心を揃えて、擦る。
「だ、め・・・っんっ、リン・・・っ」
「主、様」
重なる唇、重なる舌、重なる肉、重なる熱、重なる圧、重なる息、重なる声。
なのに。
ああ、なぜ、これほどに何もかもを重ねても。
なぜ、貴方は、心だけは、重ねてくださらないのか。
内からも外からも、薬と愛撫に絡め取られた少年の体はゆっくりと熔け。
再び後孔へと潜り込んだ、犬の右中指は先に見つけていた主の弱点を緩やかに撫でる。
「やぁっ!・・・ゃっ!そこ、だ、めだ・・・っぁ、あぁ・・・っ」
快楽に揺らされて、がくがくと震える体が放つ光は愚かな崇拝者の瞳には、虹色と見える。
ああ、本当に貴方様は、何と。
――― 美しい。
喩え貴方が、自らの消滅を望まれていると、分かっていても。
我々は、貴方を失うことなど、できはしないの、です。我が、主。
やがて。悲鳴のように上がる喘ぎに、主と己の限界を知った幻魔は少年を膝上へと誘い。
「・・・どうか」
お許しを。
そう苦しげに詫びながら、
己の空虚さを嘆く主の内を埋めるべく、己の楔をじわりと、そこへ含めた。