Balance 11



「お受け、いたします。“白”を」
「いいのかい?アレに疎まれる可能性もあるのだよ?」
「それで、あの方が壊れずに済むのなら。・・・それに」

(私が断れば、次に誰がその役割を担うというのだ。誰があの肌に触れ、その声を聴くと)
ぎ、とゲイ・ボルグの柄を握り締める男は、沸きあがる感情は音にせず、違う質問を作る。

「それに?」
「・・・それに、ひとつ、腑に落ちません。なぜ、」
「なぜ?」
「・・・」

恐らくは問いたい内容など見通しているであろうに。
あえて問い返す意地悪な声に言いよどむクー・フーリンをルイは面白げに、見る。

「ふふ。なぜ、私がアレに“黒”を注ぎすぎたか、かい?」
「・・・」
沈黙したまま、肯く。

主がここまで狂うほどに、なぜ、と。
いかに執着が深かろうと、相手の器の限界を測れないほどに愚かな御方では無い、はずなのに。

ふ。と、珍しく自嘲の響きの笑いが落ちる。
「私とても、予想外だったことなのだよ、まさか」

――― まさか私の腕の中で、違うモノの名前を囀る小鳥が居るとは思わなくてね。
思わず、二度と鳴けないように、この手で、縊りかけてしまった、とはねぇ。
・・・まだ、ボウが私の中で同化しきれずにいるのかね。まったく、愚かな子供は困る。


「え?」
聞き取れなかった言葉を問い返しても、地獄の王は微笑むばかり。

「いや。アレが魅力的に過ぎる、というだけのことだ」
私の自制すら壊してしまうほどにね。

だから。

「お前も気をつけることだ。シュラの猛犬」
「何、を」

「お前の主人が、悪魔の中の悪魔、だということを、くれぐれも、忘れずに」
「・・・(今更、ですね)」

「お前がどれだけ、傾くか、楽しみにしているよ」
――― 黒に。

「・・・」

では、と。固い表情のまま、一礼をして、踵を返し。
シュラの元へと急ぐ白い幻魔を見送って、またルイは微笑む。


「ふふ、傾きすぎて、お前自身が壊れないようにね。古代の光の神ルーの愛息子」

ふ。きっとお前も天国から地獄へと突き落とされるだろうけどね。ケルトの英雄。
私ですら、怒りに我を忘れたよ。
ふふ。こんな感情はいつ以来だったかな。


まったく、本当に、お前は。

いけない子(・・・・・)だね。シュラ」






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