「お受け、いたします。“白”を」
「いいのかい?アレに疎まれる可能性もあるのだよ?」
「それで、あの方が壊れずに済むのなら。・・・それに」
(私が断れば、次に誰がその役割を担うというのだ。誰があの肌に触れ、その声を聴くと)
ぎ、とゲイ・ボルグの柄を握り締める男は、沸きあがる感情は音にせず、違う質問を作る。
「それに?」
「・・・それに、ひとつ、腑に落ちません。なぜ、」
「なぜ?」
「・・・」
恐らくは問いたい内容など見通しているであろうに。
あえて問い返す意地悪な声に言いよどむクー・フーリンをルイは面白げに、見る。
「ふふ。なぜ、私がアレに“黒”を注ぎすぎたか、かい?」
「・・・」
沈黙したまま、肯く。
主がここまで狂うほどに、なぜ、と。
いかに執着が深かろうと、相手の器の限界を測れないほどに愚かな御方では無い、はずなのに。
ふ。と、珍しく自嘲の響きの笑いが落ちる。
「私とても、予想外だったことなのだよ、まさか」
――― まさか私の腕の中で、違うモノの名前を囀る小鳥が居るとは思わなくてね。
思わず、二度と鳴けないように、この手で、縊りかけてしまった、とはねぇ。
・・・まだ、ボウが私の中で同化しきれずにいるのかね。まったく、愚かな子供は困る。
「え?」
聞き取れなかった言葉を問い返しても、地獄の王は微笑むばかり。
「いや。アレが魅力的に過ぎる、というだけのことだ」
私の自制すら壊してしまうほどにね。
だから。
「お前も気をつけることだ。シュラの猛犬」
「何、を」
「お前の主人が、悪魔の中の悪魔、だということを、くれぐれも、忘れずに」
「・・・(今更、ですね)」
「お前がどれだけ、傾くか、楽しみにしているよ」
――― 黒に。
「・・・」
では、と。固い表情のまま、一礼をして、踵を返し。
シュラの元へと急ぐ白い幻魔を見送って、またルイは微笑む。
「ふふ、傾きすぎて、お前自身が壊れないようにね。古代の光の神ルーの愛息子」
ふ。きっとお前も天国から地獄へと突き落とされるだろうけどね。ケルトの英雄。
私ですら、怒りに我を忘れたよ。
ふふ。こんな感情はいつ以来だったかな。
まったく、本当に、お前は。
「いけない子だね。シュラ」