Balance 13



ああ。
ここは、マグ・メル(喜びの島)か、それともティル・ナ・ノグ(常若の国)か。
・・・いや、ここは、やはり、魔界。最強で最悪で最愛の主が居られる、地獄の底の楽園。


「・・・ぁ・・・っ、主、さ、まっ! ど、うか」

どうか、もう、お許しを。と。
あっさりと敗北宣言を告げるケルトの英雄に、地獄の王の口角が残酷に上がる。

くす。おゆるしを、じゃ、ないだろ?

「“もっと”、だろ?・・・リン」

己の中心で、尊く得がたい声が響く。それだけで、もうどうにかなってしまいそうな犬の白い心は
再び、くちゃりと鳴る主の舌の音と、己の嚢を撫でる感触を得て、血の色に染まる。

「まだ、だすなよ。おれが、まんぞく、するまで」
少し舌足らずな主の命令は、一層に犬の熱を上げ、主から与えられる“奉仕”に犬の思考は惑い。

そういえば、と。地獄の悦楽に眩まされながら、昔の記憶をたどった。




◇◆◇




「もう!ルイのやつ!!何だよ、このマガタマ!!」
何だかいろいろな技を吐き出すのは いーんだけど、どの技も“使えない”ってどういうことだよ!

「使えない、と、は。戦闘中に、ですか?」
「戦闘中はもちろん、平時も使えない!・・・自動効果か交渉スキルかと思ったけどそうでもない」
訳が分かんない!いつ、どんなシチュで使う技なの、これ!

「しかも、呪われてるわけでも無いのに、全部技を出すまではずせないってナニソレ!!」

お怒りになる貴方を見ながら、普段の戦闘用のマガタマとは全く異なる“それ”が醸し出す「色」に気づき、周囲が全員CHARMに近い状態で声も出なかったのは、いつの、こと、だったか。

そのマガタマの名と吐き出す技名が、どうやらインドの言葉らしいと判断された貴方が質問を投げられたときに、パールヴァティやシヴァや、ヴィシュヌが困ったように言いよどんだのは。

――― いつの。


なぜ、地獄の王が貴方にその類の能力を授けようと、するのか。
なぜ、「今の貴方」は持たぬはずの、多情さを無理やりに引き出そうと、するのか。
なぜ、それを望まぬはずの貴方が、このように、鮮やかにその魅力を輝かせられる、のか。

我々は。既にその故を、知っている。・・・いや、知っていた。
貴方に出会い、貴方に魅かれ、貴方に従ったあのときから、既に。

「っ。・・・あ、ぁっ、主さ、まっ、も、う」
「もう、だめ?」
考え事、してるからだよ。戦闘中に気を逸らしちゃダメだろ?オレの、猛犬

ああ。
そう、詰るように、嬉しそうに、楽しそうに。
舐め上げていた、私の“先端”から舌を、“柄”から指を離しながら、くすくす、と、微笑んで。

じゃあ、おいで、リン。おれのなかに、と。

ゆっくりと両腕をつき、両膝を緩やかに開き、腰を上げ、恋の季節の獣の姿勢を採って。
上目遣いに私を見上げ、妖艶に笑って、誘うように、小首を傾げる貴方は、本当に。

悪魔の中の、

――― 悪魔



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※リンクしていない創作にて、性的技巧を吐き出すマガタマを設定しておりまして。
それに絡めた伏線話でもあり、またリバ的要素もあるため、隠させていただきました。